取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「盛況だねえ」
 声に顔を向けると、そこには氏子の総代表の島岩勇雄がいた。勇雄に会うのは千景と一緒に挨拶に行って以来だった。
「いつもお世話になっております」
「あんな小さかった優維ちゃんが結婚してこんなイベントまでやって、立派になったもんだ」
 しみじみと勇雄が言うから、優維は照れ臭くなった。

 小さいころからかわいがってもらっていた。神社のお祭りの屋台でりんご飴や綿菓子を買ってもらったこともある。
「これ、婿さんのアイディアなんだって? いい人をもらったねえ」
「はい」
 優維はにっこりと笑った。千景がほめられるのは誇らしい。

「私も猫が好きでねえ。飼えるかどうかはわからないけど、見させてもらうよ」
「ゆっくり御覧になってください」
「ありがとね」
 勇雄は、保護猫団体の係員とも話ながらゆっくり猫を見て回った。

 暑い日差しに炙られながら、人も猫も体調を崩さずに終了を迎えようとした三時頃。
 招かれざる客が黒い影のように訪れた。
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