取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 観客を得た気配に、勝弘はにたりと笑って声を大きくした。
「どうやって借金を返したんですかなあ。違法なことをしたのか、信者からむしりとったのか」
 会場にさらにざわめきが走る。

「なにもしてません!」
「だったらなんで急に返済が完了したんですかねえ? 二千万ですよ! このイベントでもたんまり場所代をもらってるんですかあ?」
「場所代なんてもらってません。言いがかりはやめてください!」
 思わず大声で言い返していた。

 普段は静かに厳かにを心がけているが、今は大人しくなどしていられない。
 こんな嫌がらせは予想もしなかった。しかも、二ヵ月もたってから。

「聞いてるだけなんですけどねえ。それとも人に言えない方法だったのですかなあ?」
 勝弘の大声に、家族連れが保護猫団体の人に声をかけて帰っていく様子が見えた。

「帰ってください。でなければ警察を呼びます」
「私はなにもしてないんですけどねえ。なんといって警察を呼ぶんです?」
 彼はにたにたと笑ってすごみ、優維はなにも言い返せない。

 目の隅に、小走りに来る千景の姿が見えた。後ろから美穂子も走って来る。
 ほっとした表情の変化を読んだのだろう、勝弘はそちらを見て顔を歪める。
 駆け寄った千景はいつものようにやわらかな笑みを浮かべていた。

「ようこそお参りくださいました。お話はあちらで伺います」
 ものおじすることなく千景が言う。その口調はあくまで静かだ。
「ああ? 俺がいると邪魔だってのか!?」
 勝弘は肩をいからせて低く威嚇する。
< 54 / 148 >

この作品をシェア

pagetop