取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
「大きな声を怖がる方もいらっしゃいます」
「みんなあ、聞いたか? 地声がでかいのが駄目なんだと! ひでえなあ!」
 ことさらに声を大きくして彼は言う。
「お参りする場所ですので、お静かに願います」
 千景はまったく動揺を見せない。

 勝弘は鼻白んだように鼻を鳴らし、千景の頭のてっぺんからつま先までじろじろとねめつける。
「ずいぶんとイケメンだよなあ。そういう男が好きだっていう男も俺の知り合いにいるんだよ」
「そうでございますか」
 千景の顔からやわらかな笑みは消えない。

「今度連れて来てやるよ」
「お参りでしたらいつでも歓迎いたします」
「へえ、いい度胸してんな」
 優維はただ震えてやりとりを見守る。

「警察を呼びますか?」
 隣に来た美穂子が優維に耳打ちする。
 そのときだった。

「やめろよ!」
 声がして、スーツを着た青年が鳥居のほうから走ってきた。
 濃茶の髪を乱して現れたのは聖七だった。

「ああ? 俺はこちらさんと話をしていただけだ」
「迷惑だ、やめてくれ」
 勝弘に言ったあと、聖七はぺこりと優維に頭を下げる。
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