取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 どうしても、自分はふたりを引き裂いた悪女なのではと思えてしまう。
 片付けを終えたあと、優維は千景とともに社務所に戻る。

「優維さん」
 途中で声をかけられ、優維は千景を見あげた。
「あの人とはなにもないですから」
 安心させるような声音がむしろ胸に痛い。
「うん……」
 頷きはしたものの、どこまで信じていいのかわからない。なにもないなら、どうして彼女はここまで来たのだろう。

 そう思う優維の手を取り、千景はぎゅっと握った。
 信じてくれ。
 そう言われているようで、優維はぎゅっと握り返した。
 社務所では直彦がひとりで留守番をしていた。

 中に入ると、直彦は顔をあげてふたりを迎える。
「おかえり、発表会はどうだった」
「無事に終わったよ、みんなかわいかった」

「千景くんも鉾舞を舞ったんだろう? どうだった?」
「久しぶりだったので疲れました」
 千景は苦笑するように答える。

「優維さん舞の映像ってありますか?」
「もちろんあるよ」
< 74 / 148 >

この作品をシェア

pagetop