取引婚をした彼女は執着神主の穢れなき溺愛を知る
 目が合うと、彼はうろたえた。
「優維さん、どうしてここに」
「夕飯ができたから……」
 木の方に目をやると、スーツの男性が隠れるように歩き去るのが見えた。

「今の人は?」
「この前とは別の保護猫団体の方ですよ。会場の下見にいらっしゃいました」
 すでに動揺はなく、いつものやわらかな笑みと穏やかな口調で千景が言う。
 嘘だ、と思った。それなら「バレないように」なんて言わないはずだ。

「優維さん」
 呼ばれて顔を上げると、千景は唇を重ねる。
 甘く深いキスに、優維はすぐにとろけた。外でキスをするなんて初めてで、それもまたどきどきしてしまう。
 なんだかごまかされている気もするが、キスで翻弄されて思考がまとまらない。

 長い長いキスのあと、彼はようやく優維を解放してくれた。
 熱くうるんだ瞳で見ると、彼は満足そうに微笑していた。

「今日のメニューは?」
 聞かれて、優維はハッとする。
 夕食のために彼を呼びに来たのに、すっかり頭から抜けてしまっていた。

「茄子のみそ炒めよ」
「おいしそうだ。呼びに来てくれてありがとう」
 千景は自然な動きで手を握って歩き出すから、優維はそれ以上なにも言えなくなっていた。
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