もう遠慮はしない~本性を隠した御曹司は離婚を切りだした妻を溺愛でつなぐ~

甘い新婚生活

「和也さんからも聞いてる。金曜の夜なら私も定時で上がれるから、そのままお店の方へ行くね」
『よかった。会えるのを楽しみにしてる』

 兄との通話を終えて、スマホをテーブルに置く。
 数日前に、和也さんは兄のレストランで打ち合わせるがあると話していた。その予定を私が聞いていいのかと困惑したが、彼はなんのこともない様子だ。

 そしてさらに仕事の後に私も合流して、兄も含めた三人でそのままお店で食事をしようと誘ってきた。
 兄も和也さんも事業に関して私にはなにも言わないけれど、双方から声をかけてくれたのだから私が加わっても問題ないのだろう。どんな会になるのかわずかな不安はあるけれど、楽しみにも思う。

 もすぐ和也さんが帰ってくる時間だと気づき、慌ててキッチンに戻った。

「ただいま」
「あっ、和也さん!」

 しばらくして玄関から聞こえてきた声に、弾けるように駆けだす。
 彼の姿を視界に捉えると、自然と笑みが浮かんだ。

「おかえりなさい。ちょうど夕飯ができたところなの」
「ありがとう」

 鞄を受け取って室内に引き返そうとしたそのとき、彼に腕を取られて振り向いた。

「ただいま、紗季」

 あらためてそう言い、軽く口づけてくる。

 和也さんと再び想いを通わせてから一週間が経った。私たちの仲はもうすっかり元通り……というより、以前にもまして仲良くしていると思う。
 私は彼を信頼して変に遠慮せずに頼るようになったし、和也さんの言動も気遣いはそのままだが大胆になった。こうしてさりげなく触れてくることが、日常生活の中で格段に増えている。

 顔を熱くする私の頭をポンポンと叩いた彼に、「ほら、行くよ」と促される。そそくさと後に続き、急いで料理を並べた。
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