BaD
声、いや、あれは叫び声と言うべきだろう。

暗闇の向こうで息子が何者かに襲われている。そんな気がした。

急いでその場へ駆けていくと、そこには古ぼけた家と、小さくおもちゃ屋と書かれた看板が立てられていた。

確かに見覚えがあるのだが、今はそれ所ではない。

店の中に駆け入ると、そこには息子と同い年ぐらいの少年が立っていた。

その時すべてを思い出した。

忘れようとしていた、あの悲惨な出来事。

あれは僕の夢だったと、やっとそう思えるようになった矢先に、だ。

僕はまた夢を見ている。そう思いたかった。

すぐに目が覚めるはず、そう願っていた。

だがまるで、おもちゃを好奇の目で見るように僕を見ているその少年が、まるで見えない綱で自分を縛ったように、僕は動けなくなっていた。

目を、目を離したら最後だ!

心の中でそう思った。

あの時も、気がつけばえっちゃんは殺され、僕も記憶が曖昧になっていた。

次にこいつから目を離せば命はない。

…そう思わざるをえなかった。

手にぐっしょりと冷や汗をかき、目は乾ききって痛かった。

それでも目を離すわけにはいかなかった。死んでも、だ。

だが、背後からまた息子の声がしたとき、迂闊にも、そいつから目を離してしまった。

まただ、目の前には光という光は見当たらず。

これこそが本当の暗闇というものなのだろうか。

自分は本当にここに存在しているのかさえ疑ってしまいそうなほど、恐ろしい空間。

背中のほうに、すうっと風が通った。

ヤツが来た!
背中でそう悟った。

「また、遊んでほしいんだね。」


その一声だけで、心臓が破裂してしまいそうなほど、緊迫した空気に包まれた。

だが、このままでは殺られてしまう。
ここはこいつに従はなければ。

「あぁ、遊ぼうじゃないか。」


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