矢吹くんが甘やかすせいで

プロローグ

「うっ、うぐっ、えっぐ………」

「ほら妃奈(ひな)、もうあの子たちいないから。僕もいるし、大丈夫だよ〜」

「うぅっ、でも、でも…やぶきくんが!」

「ああこれ?こんなのかすり傷だって。妃奈が気にすることじゃないよ」

「でもやぶきくんのおかお、すごくいたそう…ひなのせいでごめんなさい…」

「妃奈のせいじゃないよ。妃奈はよく頑張った。悪いのはあの子たちだから!ね、もう泣きやもう?妃奈はいい子だろう?」

「うん、ひなはいいこ、ひなはいいこ…」

「そう、偉いぞ妃奈」

「やぶきくん、ごめんね。ひな…がんばる!あのこたちにもまけないよ!」

「そうかそうか。でもたまには、僕に甘えてくれたっていいんだからね?」

「あまえる?あまえるってなあに?」

「うーん…妃奈にはまだ難しいかな。もう少し大きくなったら教えてあげるよ」

「おおきく?…わかった!ひな、はやくおおきくなるからね!」

「おおっ、それは楽しみだなあ」

そう言って泥だらけの顔で無理やりつくってくれた矢吹くんの笑顔を、私はまだはっきりと覚えている。

「やぶきくん、ごめんなさい…」

つぶやいた瞬間、私を夢から呼び覚ますアラームが遠くで聞こえた。
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