無口な自衛官パイロットは再会ママとベビーに溺愛急加速中!【自衛官シリーズ】
第四章 祝福のシフォンケーキ
第四章

クリスマスが終わった街は、あっという間に装いを変え新年の準備が始まった。 

それまで赤や緑で鮮やかに彩られていた原色の風景は、凜とした白を基調とした景色へとすっかり表情を変えている。 

「寒いけど、きれいですね」

美月は手の平を上にして両手を伸ばし、静かに降り続く雪を受け止めた。

「冷たい」

それは当然だとクスリと笑い、やがてゆっくりと形を変え溶けていく姿を、息を詰めじっと見つめた。

雪が溶けると水になる。その当たり前の過程をじっくりと見届けられたことに、思いがけず感動する。

普段日常に追われて見過ごしているなんでもないことを、無駄に時間をかけて確認する。

それは今の美月にとって、普段なら絶対にできない時間の使い方。

蓮人がここにいない今だからこその贅沢だ。

「静かだな」

碧人はどこもかしこも雪で覆われた庭園内を、神妙な表情で眺めている。

真っ白な世界にいると神聖な気持ちになり、声を出すのにも躊躇する。

ここは金沢にある有名な日本庭園。

季節ごとに違う表情を見せる趣のある広い庭園内は、一面真っ白の世界が広がり、幻想的な景色を楽しめる。

初めてここを訪れた美月は、厳かな空気が流れる庭を眺めながら、すっと背筋を伸ばした。

「なんだか別世界ですね」

ひとつの傘の中、美月は碧人に寄り添い小声でささやいた。

「そうだな。雪の季節に来るのは初めてだが、落ち着くし、いいな」

碧人はしみじみとつぶやき美月の肩を抱き寄せた。

「寒くないか? って聞かなくても寒いよな」

ひとり納得する碧人に、美月はふふっと笑う。

「寒くても、こうしてると温かいです」

美月の身体は碧人の身体にすっぽり収まって、雪に触れることもない。

雪だけでなくなにもかもから蓮人に守られているようで心強く、穏やかな気持ちになる。

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