27センチ

しばらく店長の後ろ姿を見学していると、

「はい、終了!あ〜疲れた。」

と大きく伸びながら店長が立ち上がった。


「え、すごい!ほんとうに直しちゃったんですか!」
「当たり前だろ!お客さんこなくて助かったわ。」


なんだかさっきまで店長を見下ろしていたせいか、やけに大きく見える。

それは店長も同じだったみたいで、


「なんだお前、ちっちぇーなぁ。」


と笑った。

初めて会った日から、よく笑う人だと思った。

ニコッ!と音が出そうなくらい全身で笑うこともあれば、

優しく、なんでも守ってくれそうにやわらかく笑うこともある。

今思えば、店長の新しい笑い顔を探すのが日課になっていたかもしれない。



「店長がおっきいんですよ!何センチあるんですか!?」


私の問いに、店長は少しだけ「…うーん」とうなりながら

「ひゃくはちじゅうさん…?」

と、まるで言葉を覚えたての子供のような発音で答えた。


マジ…かわいい…!


「そういうお前は何センチだ?150ないだろ!」

「な…、あります!156あります!!」


必死な私が可笑しかったのか、店長の口が緩む。




あ…見たことない笑顔かも。


もう少し、あとちょっとだけ見ていたかったのに、カランカランという来客を告げる音に閉ざされてしまった。


「いらっしゃいませ〜」






さっきの笑顔は、どんな笑顔だったんだろう。

あのとき、店長は何を考えていた?


何を想っていた?






ああ、わたし、








店長が好きだ。
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