27センチ

「いや〜すみません、お待たせしました。」


気が付くと、さっきの男の人がトビラの前に立っていた。

我に返り時計を見ると、18時12分。

わたし、そんなにボーッとしてたんだ。



「なんだか忙しくなっちゃってねぇ。」

疲れたと言うように首をコキコキならしらがら、その人はテーブルを挟んで私と向かい合った。


思わずさっきまでの緊張が蘇る。

なんてったって、バイトをするのも初めてであれば、面接するのだって初めてなのだ。


高校受験の時には面接もしたけれど、やっぱりそれとはちょっと違うでしょ?





「じゃあさっそく…」


履歴書と私の顔とを交互に見ながら、「週何回くらい入れる?」とか「どれくらい収入必要?」とか、それらしい質問が繰り返される。


でも、私が何を言っても店長らしき人は「あ、そーですか。じゃあ次の質問…。」ばかり。



たまに「ちゃんと聞いてます!?」と言ってしまいたいくらいだった。



「じゃ、採用ってことで。これからよろしく。」





は!!!???



即決!?




普通こういうのって、何日か後とかに合否連絡しますんで…じゃないの?

なんか、大丈夫かなぁこのお店…。


なんだか不信感も募ってきてつい書類を書く店長の横顔をじっと見つめていたら、視線に気付いたのか店長は顔をあげた。



そして、


さっきまでの面接の中でもなかったくらい真面目な顔で、


だけど優しい笑みが含まれた顔で言った。






「初めてのバイトで大変だと思うけど、頑張って。」



その言葉と顔に、今までの緊張とか不信感とかがすべて吹っ飛ばされた気がした。






わたし、この人と働きたい!
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