いつまでも、夢見せる王子じゃいられない
歌謡ショー
当日、4人は老人ホームに到着すると、温かい拍手で迎えられた。
「……思ってたより、ちゃんとしてるな」
樹里が呟く。
簡易的に作られた舞台の前には、多くのご老人たちが座り、今か今かと開演を待ちわびていた。
楽器のセットアップを終えると、舞台袖から詩音が現れた。
「……は?」
真琴は思わず声を漏らした。
詩音は、華やかなコスプレ用の着物を身にまとい、堂々と舞台に立っている。
あいつ、ここまでやる気だったのか……
この日の主役は、間違いなく詩音だった。
真琴が "王子様" を演じる必要は、どこにもなかった。
最初は、演歌の部。
詩音は、練習のときとまったく違う雰囲気で歌い出した。
少し大げさな手振りを交え、小節を効かせ、深めのビブラートに情感を込める
……え、こんなに本格的だったっけ?
まるでプロの演歌歌手のような堂々とした歌唱。
観客のご老人たちが、一瞬にして惹き込まれていくのが分かった。
その空気に、樹里がノってきた。
間奏部分で、ギターを掲げ、真琴と早紀に視線を送る。
(アドリブ、入れるぞ)
「えっ、やるの?」
戸惑いながらも、真琴と早紀はすぐにリズムとコード進行を繰り返す。
樹里は、歌うかのような"泣きのギター" を披露する。
……すげぇ。
まるで、昭和の演歌番組で聴くような、情感たっぷりのギターサウンド。
演奏が終わると、客席から大きな拍手が巻き起こった。
詩音は、演歌の部が終わると、さらりと着物を脱ぎ捨てた。
現れたのは、昭和のアイドルのようなミニスカートの衣装。
「……マジか」
詩音は、少し照れながらもアイドルスマイルを見せると、そのまま振り切った ぶりっ子全開 のパフォーマンスでアイドル歌謡を歌い上げた。もともとアイドル顔の詩音が、その気になってアイドルを演じると、とんでもない破壊力を持つ。
樹里が思わずギターを弾きながら吹き出すほどだった。
ご老人たちは手拍子をしながら、「かわいいねぇ!」と歓声をあげている。
詩音は、完全にステージを支配していた。
アイドル歌謡の部が終わると、詩音は金髪のカツラをかぶり、今度はアメリカンオールディーズを披露。
軽快なリズムに合わせ、ノリノリでステップを踏みながら歌う詩音。
そのエネルギッシュなパフォーマンスに、ご老人たちの表情がパッと明るくなった。
立ち上がって、ステップを踏む人。
手拍子を打ち、笑顔で口ずさむ人。
車いすの人も、座ったまま軽く体を揺らしてリズムを取っている。
懐かしい青春のサウンドに涙する人までいる。
その光景を見て、真琴は思った。
……音楽って、こんなに人を楽しませられるんだ。
◇◇
最後の曲を終え、詩音は一旦舞台袖に引っ込んだ。
そして、今度は普通の制服姿に着替えて戻ってきた。
「いや~、楽しかったねぇ!」
ご老人たちが、口々に言う。
「今日は、私たちの演奏を聴いてくれて、本当にありがとうございました!」
いつもの詩音のまま、自然にご老人たちに挨拶をする。
ステージ上では、あれほど振り切っていたのに、
降りた瞬間、普段の詩音に戻っていた。
それが、ご老人たちにとっても心地よかったのか、
彼女の言葉に、また温かい拍手が送られる。
真琴は、ご老人たちの笑顔を見ながら、じんわりと胸にこみ上げるものを感じた。
演奏を聴いて喜んでもらえることが、こんなに幸せなことだったなんて――。
そして、ふと、詩音のステージでの姿を思い出す。
ステージって、日常の延長じゃない。ステージだからこそ、見せられる夢があるんだ。
詩音は、あれだけのパフォーマンスをしても、降りれば普通の女子高生に戻る。
その姿を見せることで、"ステージとは何か" を自然と伝えていた。
……そっか
真琴は、詩音からのメッセージを受け取った気がした。
"王子様のままじゃなくてもいい"
"ステージの自分と、普段の自分を切り分ければいい"
今まで、どちらかしか選べないと思っていた。
でも、そうじゃないのかもしれない。
"ステージでは王子様でいい"
"でも、降りたら、自分に戻ってもいい"
それなら――
「……思ってたより、ちゃんとしてるな」
樹里が呟く。
簡易的に作られた舞台の前には、多くのご老人たちが座り、今か今かと開演を待ちわびていた。
楽器のセットアップを終えると、舞台袖から詩音が現れた。
「……は?」
真琴は思わず声を漏らした。
詩音は、華やかなコスプレ用の着物を身にまとい、堂々と舞台に立っている。
あいつ、ここまでやる気だったのか……
この日の主役は、間違いなく詩音だった。
真琴が "王子様" を演じる必要は、どこにもなかった。
最初は、演歌の部。
詩音は、練習のときとまったく違う雰囲気で歌い出した。
少し大げさな手振りを交え、小節を効かせ、深めのビブラートに情感を込める
……え、こんなに本格的だったっけ?
まるでプロの演歌歌手のような堂々とした歌唱。
観客のご老人たちが、一瞬にして惹き込まれていくのが分かった。
その空気に、樹里がノってきた。
間奏部分で、ギターを掲げ、真琴と早紀に視線を送る。
(アドリブ、入れるぞ)
「えっ、やるの?」
戸惑いながらも、真琴と早紀はすぐにリズムとコード進行を繰り返す。
樹里は、歌うかのような"泣きのギター" を披露する。
……すげぇ。
まるで、昭和の演歌番組で聴くような、情感たっぷりのギターサウンド。
演奏が終わると、客席から大きな拍手が巻き起こった。
詩音は、演歌の部が終わると、さらりと着物を脱ぎ捨てた。
現れたのは、昭和のアイドルのようなミニスカートの衣装。
「……マジか」
詩音は、少し照れながらもアイドルスマイルを見せると、そのまま振り切った ぶりっ子全開 のパフォーマンスでアイドル歌謡を歌い上げた。もともとアイドル顔の詩音が、その気になってアイドルを演じると、とんでもない破壊力を持つ。
樹里が思わずギターを弾きながら吹き出すほどだった。
ご老人たちは手拍子をしながら、「かわいいねぇ!」と歓声をあげている。
詩音は、完全にステージを支配していた。
アイドル歌謡の部が終わると、詩音は金髪のカツラをかぶり、今度はアメリカンオールディーズを披露。
軽快なリズムに合わせ、ノリノリでステップを踏みながら歌う詩音。
そのエネルギッシュなパフォーマンスに、ご老人たちの表情がパッと明るくなった。
立ち上がって、ステップを踏む人。
手拍子を打ち、笑顔で口ずさむ人。
車いすの人も、座ったまま軽く体を揺らしてリズムを取っている。
懐かしい青春のサウンドに涙する人までいる。
その光景を見て、真琴は思った。
……音楽って、こんなに人を楽しませられるんだ。
◇◇
最後の曲を終え、詩音は一旦舞台袖に引っ込んだ。
そして、今度は普通の制服姿に着替えて戻ってきた。
「いや~、楽しかったねぇ!」
ご老人たちが、口々に言う。
「今日は、私たちの演奏を聴いてくれて、本当にありがとうございました!」
いつもの詩音のまま、自然にご老人たちに挨拶をする。
ステージ上では、あれほど振り切っていたのに、
降りた瞬間、普段の詩音に戻っていた。
それが、ご老人たちにとっても心地よかったのか、
彼女の言葉に、また温かい拍手が送られる。
真琴は、ご老人たちの笑顔を見ながら、じんわりと胸にこみ上げるものを感じた。
演奏を聴いて喜んでもらえることが、こんなに幸せなことだったなんて――。
そして、ふと、詩音のステージでの姿を思い出す。
ステージって、日常の延長じゃない。ステージだからこそ、見せられる夢があるんだ。
詩音は、あれだけのパフォーマンスをしても、降りれば普通の女子高生に戻る。
その姿を見せることで、"ステージとは何か" を自然と伝えていた。
……そっか
真琴は、詩音からのメッセージを受け取った気がした。
"王子様のままじゃなくてもいい"
"ステージの自分と、普段の自分を切り分ければいい"
今まで、どちらかしか選べないと思っていた。
でも、そうじゃないのかもしれない。
"ステージでは王子様でいい"
"でも、降りたら、自分に戻ってもいい"
それなら――