いつまでも、夢見せる王子じゃいられない
王子様卒業計画
軽音部の部室。
練習が終わり、片付けを終えたあと、真琴はゆっくりと椅子に腰を下ろした。窓の外から差し込む夕陽が、柔らかく部屋を照らしている。
……どうするべきなんだろう。
老人ホームでの演奏以来、心の中にあった違和感と向き合っていた。
"ステージはステージ"――詩音のパフォーマンスを見て、それがよく分かった。
真琴はステージを降りても、"王子様" を演じ続けていた。
最初は、みんなが求めるからだと思っていた 後輩たちの憧れの的として、カッコよくあろうとしてきた。
それが、いつの間にか――"そうしなければならない" というプレッシャーになっていた気がする。
……でも、急にキャラを変えたら、みんなはどう思うんだろう。
後輩たちの反応が怖かった。今さら「王子様をやめます」と言ったら、ショックを受ける子もいるかもしれない。
それに、あの篠原凜花みたいな過激派がまた何かしでかすかもしれない。
どうすればいいんだ……
考えれば考えるほど、堂々巡りだった。
そんなとき、ふと目の前に早紀が座った。
「……真琴、何か悩んでる?」
落ち着いた声が、静かに響く。
「……バレた?」
苦笑しながら、真琴は頬をかいた。
「まぁね。普段の真琴なら、こんな風に悩んでる顔はしないから」
「……そっか」
真琴は、少し躊躇ったあと、素直に口を開いた。
「……実はさ。王子様キャラをやめたいって思ってる。でも、いきなりやめたら、周りがどう反応するか分からなくて……」
早紀は、黙って話を聞いていた。
そして、真琴が話し終わると、少し考えるように目を伏せた。
やがて、静かに口を開く。
「いきなり全部を変えるのは、たしかにリスクがあるわね」
「……やっぱそう思う?」
「ええ。でも、急にキャラを変えるんじゃなくて、"自然体の真琴を受け入れてくれる人" を少しずつ増やしていけば、無理なく変われるんじゃない?」
「……自然体を受け入れてくれる人?」
「まずは、私たちバンドメンバーから始めるの」
「私たちは、真琴が"王子様" を演じなくても大丈夫だって分かってるわ。だから、練習中や普段の会話では、無理にキャラを作らなくていいようにするの」
「うん……」
「たとえば、部室ではもっと自然体でいられるようにする。樹里も詩音も、真琴が変わることを受け入れてくれるはずだから」
「たしかに……あいつらなら、何も言わずに普通に接してくれそうだな」
「まずは、"王子様じゃない真琴" を、バンドメンバーの前で定着させることね」
「次は、軽音部の後輩たち」
「……後輩たちかぁ」
「全部員を一気に変えようとしなくてもいいの。話しやすい子や、元々自然体の真琴を知ってくれてる子から始めてみるのはどう?」
「どうやって?」
「たとえば、詩音や樹里が"真琴って意外と普通の女子っぽいよね" って後輩に話すの」
「……ああ、そういう感じか」
「それとなく、周りに"真琴は王子様キャラを演じてるだけじゃなくて、素の部分もある" って認識してもらう」
「なるほど……」
「軽音部の中で"王子様" じゃなくても大丈夫になれば、学校全体にも自然と広がっていくわ」
「……」
「いきなりキャラを変える必要はないわ。でも、"素の真琴を受け入れてくれる人" を少しずつ増やしていけば、無理なく変われるはずよ。そして、最終的にどうするかは、真琴が決めればいいの」
真琴は、静かにその言葉を噛みしめた。
「……そっか。いきなり変えるんじゃなくて、少しずつ広げていけばいいんだ」
「そう。それなら、無理なく変われるし、真琴もプレッシャーを感じずに済むはずよ」
「……うん。ちょっと気が楽になったかも」
早紀は、静かに微笑んだ。
「私たちは、どんな真琴でも支えるわ」
真琴は、その言葉に、ほんの少し、心が軽くなるのを感じた。
練習が終わり、片付けを終えたあと、真琴はゆっくりと椅子に腰を下ろした。窓の外から差し込む夕陽が、柔らかく部屋を照らしている。
……どうするべきなんだろう。
老人ホームでの演奏以来、心の中にあった違和感と向き合っていた。
"ステージはステージ"――詩音のパフォーマンスを見て、それがよく分かった。
真琴はステージを降りても、"王子様" を演じ続けていた。
最初は、みんなが求めるからだと思っていた 後輩たちの憧れの的として、カッコよくあろうとしてきた。
それが、いつの間にか――"そうしなければならない" というプレッシャーになっていた気がする。
……でも、急にキャラを変えたら、みんなはどう思うんだろう。
後輩たちの反応が怖かった。今さら「王子様をやめます」と言ったら、ショックを受ける子もいるかもしれない。
それに、あの篠原凜花みたいな過激派がまた何かしでかすかもしれない。
どうすればいいんだ……
考えれば考えるほど、堂々巡りだった。
そんなとき、ふと目の前に早紀が座った。
「……真琴、何か悩んでる?」
落ち着いた声が、静かに響く。
「……バレた?」
苦笑しながら、真琴は頬をかいた。
「まぁね。普段の真琴なら、こんな風に悩んでる顔はしないから」
「……そっか」
真琴は、少し躊躇ったあと、素直に口を開いた。
「……実はさ。王子様キャラをやめたいって思ってる。でも、いきなりやめたら、周りがどう反応するか分からなくて……」
早紀は、黙って話を聞いていた。
そして、真琴が話し終わると、少し考えるように目を伏せた。
やがて、静かに口を開く。
「いきなり全部を変えるのは、たしかにリスクがあるわね」
「……やっぱそう思う?」
「ええ。でも、急にキャラを変えるんじゃなくて、"自然体の真琴を受け入れてくれる人" を少しずつ増やしていけば、無理なく変われるんじゃない?」
「……自然体を受け入れてくれる人?」
「まずは、私たちバンドメンバーから始めるの」
「私たちは、真琴が"王子様" を演じなくても大丈夫だって分かってるわ。だから、練習中や普段の会話では、無理にキャラを作らなくていいようにするの」
「うん……」
「たとえば、部室ではもっと自然体でいられるようにする。樹里も詩音も、真琴が変わることを受け入れてくれるはずだから」
「たしかに……あいつらなら、何も言わずに普通に接してくれそうだな」
「まずは、"王子様じゃない真琴" を、バンドメンバーの前で定着させることね」
「次は、軽音部の後輩たち」
「……後輩たちかぁ」
「全部員を一気に変えようとしなくてもいいの。話しやすい子や、元々自然体の真琴を知ってくれてる子から始めてみるのはどう?」
「どうやって?」
「たとえば、詩音や樹里が"真琴って意外と普通の女子っぽいよね" って後輩に話すの」
「……ああ、そういう感じか」
「それとなく、周りに"真琴は王子様キャラを演じてるだけじゃなくて、素の部分もある" って認識してもらう」
「なるほど……」
「軽音部の中で"王子様" じゃなくても大丈夫になれば、学校全体にも自然と広がっていくわ」
「……」
「いきなりキャラを変える必要はないわ。でも、"素の真琴を受け入れてくれる人" を少しずつ増やしていけば、無理なく変われるはずよ。そして、最終的にどうするかは、真琴が決めればいいの」
真琴は、静かにその言葉を噛みしめた。
「……そっか。いきなり変えるんじゃなくて、少しずつ広げていけばいいんだ」
「そう。それなら、無理なく変われるし、真琴もプレッシャーを感じずに済むはずよ」
「……うん。ちょっと気が楽になったかも」
早紀は、静かに微笑んだ。
「私たちは、どんな真琴でも支えるわ」
真琴は、その言葉に、ほんの少し、心が軽くなるのを感じた。