いつまでも、夢見せる王子じゃいられない

桜影メンバーと遼の初対面

 照明が落ち、ステージを後にする。
 耳の奥にはまだ観客の歓声が残っていた。

 バックステージに戻ると、詩音が両手を高く上げて叫んだ。
「イエーーーッ!! 楽しかったぁぁ!!」
「客もノリノリだったし!!」
 樹里もギターを抱えたまま興奮を隠しきれない。

「……成功ね」
 早紀が冷静に言うものの、その目には確かな満足が見えた。
 真琴はスティックをクルクルと回しながら、自然と笑みを浮かべる。
「まぁ、悪くなかったな」
 そう言いながらも、全身が心地よい達成感で満たされているのを感じる。

 Beat Cellarでのライブとは違う。
「バンドとしての手応え」 を、初めてこんなにも強く感じた。
「なぁ、次のライブ、すぐにやろうぜ!」
 樹里が勢いよく言う。
「それもありね」
 早紀も珍しく前のめりだ。
「うんうん、またこんなライブやりたいよね!」
 詩音も同意し、メンバーがみな高揚感に包まれる。

 ……もっとやりたい。
 真琴は、改めてそう思った。

   ◇◇

 バックステージの熱が少し落ち着いた頃、遼が控えスペースに現れた。
「……で、お前的にはどうだった?」
 真琴の前に立ち、何気ない口調で尋ねる。
「最高だった」
 即答だった。
 遼は少しだけ目を細める。
「まぁ、お前ならそう言うと思ったよ」
「ふふん、俺のライブ、どうだった?」
 真琴はスティックをくるりと回しながら、わざと王子様スマイルを向ける。
 遼は特に動じることなく、軽く肩をすくめる。
「言うことねぇよ。客は楽しんでたし、お前らも楽しんでた。それがすべてだろ」
 その言葉を聞いた瞬間、真琴の中で何かがふっとほどけた。
 ……やっぱり、遼はそういう人だ。
 ただ、ステージでの真琴も、素の自分も、全部ひっくるめて"お前"だと言ってくれる。
「……そっか」
 ふと、心の中で小さくつぶやいた。
 遼の前では、どんな自分でもいいんだな、と。

   ◇◇
 
「おーい、マコっちゃん! 」
 真琴が振り向くと、バンドメンバーが集まっていた。
「もしかして——桜影の王子様を射止めた年上の彼氏!?」
 詩音がニコニコしながら言う。
「そんなんじゃないよ!」真琴はすぐに反応する。

 樹里は、遼をちらりと見て、口元を軽くゆがめた。
「あー、そういや詩音と早紀は初対面か。こいつがウチの王子様が ‘ちょっと特別扱い’ してる人ね。」
「それはどういう意味かしら?」
 早紀が冷静に尋ねる。
「いや、マスターがやたら推してる ‘優秀な建築オタク’ ってだけ」
「勝手に変な肩書つけるな」
 遼が淡々と突っ込むが、樹里はフフッと笑った。

「へぇ〜、でも、やっぱりちょっと ‘特別な人’ なのは間違いないんじゃない?」
 詩音がからかうように言う。

 バンドメンバーは茶化しながらも、なんとなく察し始めていた。
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