いつまでも、夢見せる王子じゃいられない

高校最後の特別ライブ決定

 放課後、真琴、樹里、詩音、早紀 の4人は久しぶりに Beat Cellar へ足を運んだ。

「マスター、ちょっといい?」
 カウンターの向こうでボトルを並べていたマスターが向き直って、4人を見てニヤリと笑った。
「おう、桜影勢じゃねぇか。今日は何の用?」
「……ちょっと、挨拶に来たんだ」
 真琴が言うと、マスターは「お?」と興味深そうに眉を上げる。

「挨拶?」
「うん。高校生活もあと半年くらいだし……次のライブが終わったら、受験のために少し活動を休止しようと思って」
「そっか」
 マスターは軽くうなずいた。

「それで、一旦区切りになるから、今のうちにちゃんとお礼を言っておきたくて」
「ふーん」
 マスターは、4人を見回した。
「ま、しばらくライブできなくなるってのは寂しい話だが……でも、お前らが真面目に進路考えてるなら、それも仕方ねぇな」
「うん」
「で?」

 マスターは腕を組み、ニヤリと笑った。
「次のライブは、トリを任せようと思ってたが、それだけじゃつまらないな」
「それだけじゃつまらない、って?」

 詩音が首をかしげると、マスターはカウンター越しに4人を見回した。
「お前ら、フェスで成功して、今やトップクラスの高校生バンドだ。だったら、‘桜影の夜’ をやらねぇか?」
「…… ‘桜影の夜’?」
「そうだ。お前らがメインの ‘卒業記念ライブ’ だよ。」
「マジで?」
 樹里が思わず声を上げる。
「マジだよ」
 マスターは満足そうにうなずく。
「完全なワンマンってわけにはいかないが、倍の枠を用意する。他のバンドも入れるが、桜影がメインだ」
「……」
 真琴は一瞬、言葉を失った。
「そんなこと、してくれるの?」
「当然だろ」

 マスターはグラスを手に取り、軽く振った。
「お前ら、Beat Cellarの ‘顔’ みてぇな存在になってんだからな」
「……そっか」
 真琴はマスターの言葉を噛み締めるようにうなずいた。

 Beat Cellarは、真琴たちが初めて本格的なライブをした場所。
 ここで何度も演奏し、成長してきた。
 そんな場所で、「高校最後の特別ライブ」 をやれるなんて——。

「……やろう」
< 25 / 31 >

この作品をシェア

pagetop