いつまでも、夢見せる王子じゃいられない
卒業ライブ「桜影の夜」
ライブハウス Beat Cellar は、これまでにないほどの熱気に包まれていた。
満員の観客が桜影の登場を待ち、ざわめきと期待感が渦を巻いている。
暗転したステージ。
次の瞬間、静寂を切り裂くようにドラムが一発、力強く鳴り響いた。
ダン!
真琴がスティックを高く掲げ、ライトが一斉に照らされる。
ギターの樹里が、ドラムに合わせて強烈なリフを刻む。
ベースの早紀がリズムを支え、詩音のカウントが入る。
「行くぞ、お前ら——!」
“桜影の夜”、開幕。
最初のロックナンバーが鳴り響くと、観客が一気に熱狂する。リズムに乗り、ステージ前方に押し寄せるファンたち。
真琴は、迷いなく王子様キャラを演じていた。ステージ上では、これが自分の役割。
私が、みんなを夢中にさせる——。
一音一音に、バンドの歴史を刻み込むように演奏する。
詩音の力強い歌声、樹里のエネルギッシュなギター、早紀の安定したベース、
そして、自分のリズムがバンドを支える。
最初の3曲が終わり、観客の歓声が鳴り響いた。
真琴は、マイクを手に取り、MCに入る。
「今日は来てくれてありがとう!」
王子様スマイル。
「高校最後のライブ、最高に楽しんでいこうぜ!」
客席から「真琴様ー!」と歓声が飛ぶ。
その反応に微笑みながら、次のセクションへと進む。
「さて、ここからはちょっと雰囲気を変えるぜ?」
樹里がギターをかき鳴らしながら、観客を煽る。
「桜影の ‘もう一つの顔’ を見せてやるよ」
詩音が、ステージ中央に立つ。観客の期待が高まる中、軽快なイントロが流れた。
「行くよー!」
詩音が指をくるくる回しながら、アイドルスマイルを炸裂させる。
弾けるような笑顔、キュートな振り付け、キラキラと輝くステージ。
さっきまでのロックバンドのメンバーとは思えない——!
観客の驚きの声が漏れる。
特に男子のファンたちは、目を輝かせながらリズムに乗っている。
「はいっ! みんなも一緒にー!」
手拍子が起こり、会場が一体となる。
詩音のアイドル歌謡は、観客を完全に巻き込んでいた。
曲が終わると同時に、ステージが暗転。再びライトがステージを照らすと、着物を着た詩音が立っている。
先ほどのはじけるような笑顔は消え、落ち着いた微笑みをたたえている。
ギターがイントロを奏でる。
詩音が、深く息を吸い込んだ。
そして——。
先ほどとは全く違うその歌声に、会場が一瞬で飲み込まれた。
観客が驚きの表情を浮かべ、しんと静まり返る。
真琴も、何度も聴いてきたはずの詩音の演歌に、背筋が震えた。
……すごい。
深く響く歌声、情感たっぷりのビブラート、そして大げさすぎない抑揚。
プロの演歌歌手が歌っているのかと錯覚するほどの完成度だった。
観客がじっと聴き入る中、詩音が視線を上げる。
その瞳には、涙が光っていた。
最後のフレーズが響き渡り、静寂が訪れる。
次の瞬間——。
「すげぇ……!」
誰かの呟きが聞こえた。
そして、会場中が割れんばかりの拍手に包まれる。
静まり返る会場。
詩音がステージ中央で余韻をかみしめる中、樹里が静かにギターを弾き始めた。
優しく、でも、どこか切なく、まるで歌手がバラードを歌うかのように情感を込める。
そして、最後には力強く……。
樹里が最後の音を鳴らすと、会場が静寂に包まれる。
静寂の中、一瞬の間を置いて——
「うおおおおおおおお!!!」
歓声が一気に爆発した。
「ここから、もう一回、ぶち上げていくぞ!!」
真琴が叫ぶと、樹里がギターを炸裂させる。
最高潮のテンションで、アップテンポのロックナンバーへ。
泣きのギターの余韻を振り払うように、会場の熱気が再燃する。
桜影の音楽が、観客と一体になった瞬間だった。
ラストの曲が終わった瞬間、会場が一瞬の静寂に包まれた。
その直後——。
「桜影!!!」
誰かが叫ぶと、それに続くように、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。
「アンコール!!!」
「真琴先輩ー!!!」
無数の声が会場を満たし、アンコールを要求する拍手が続く。
樹里がニヤリと笑い、「アンコール行くぞ」とギターのストラップを掛け直す。
早紀が軽くベースを鳴らしながら、静かに頷く。
詩音が「よーし!」とマイクを手に取り、観客を煽る。
「行くよ! 最後の最後まで、ぶち上がっていこう!!!」
「おおおおおおお!!!」
歓声が爆発した。
イントロが鳴る。
観客が一斉に跳び上がるように盛り上がり、桜影は高校最後の曲に突入した。
真琴のスティックがリズムを刻み、樹里のギターが唸りを上げ、早紀の低音が地を這い、詩音の歌声が天井を突き抜ける。
全員が、この一瞬のために全力を注いでいた。
……これが、高校最後のステージ。
曲の終盤——。
真琴は一度、深く息を吸った。
バンドが一斉に音を止めた。
真琴はスティックを大きく振り上げ、ドラムソロが始まる。
バスドラムが響き、スネアが炸裂する。軽快なハイハットワーク、力強いフィルイン。
観客の歓声がさらに高まり、誰もが目を奪われている。
私は——このバンドのドラマーなんだ!
体の芯から湧き上がるエネルギーを、スティックに込める。
心臓の鼓動とリズムが重なり、会場の熱気がドラムの音に乗って広がっていく。
やがて、スネアの炸裂する一発で、全ての音が止まった。
会場が一瞬、静寂に包まれる。
その後——。
「桜影!!!」
爆発するような歓声。
名前を叫ぶ声、拍手、興奮に満ちた叫び。真琴は、スティックを握りしめたまま、仲間たちを見た。
樹里も、詩音も、早紀も、満面の笑みを浮かべていた。
真琴は、ステージ上で肩をたたきあう3人を見て「最高だったな」とつぶやいた。ライブが終わり、Beat Cellarのフロアには興奮冷めやらぬ熱気が残っていた。
◇◇
観客たちが名残惜しそうに帰っていく中、桜影のメンバー4人は、そのまま打ち上げに残ることにした。
カウンター席に腰を下ろすと、マスターがグラスを拭きながら苦笑する。
「お前ら……いやぁ、今日は本当にやられたよ。まさかあそこまでのライブになるとはな」
「ふふん、でしょ?」樹里が得意げに腕を組む。
「アイドルから演歌、泣きのギター、そしてロックのぶち上げ……こんなバンド、他にいないって」
「私たちにしかできないライブをしようと思ってたから」真琴が微笑む。
「まさにそれだったな。」マスターが感慨深げに頷く。
詩音は「マスターのリアクションが一番嬉しいかも!」と無邪気に笑い、早紀も「確かに、今日のライブは特別だったわね」と静かに言った。
遼は、カウンターの少し奥に座って、無言でグラスの水を揺らしていた。
真琴はその隣に座る。
「マスター、真琴にコーラを」遼が注文する。
マスターがグラスにコーラを注ぎ、真琴の前に置いた。
「ありがと」
「ライブの余韻に浸るのもいいが……卒業後は、どうするんだ?」
「……戻ってくるよ」
真琴は迷いなく答えた。
Beat Cellarの空気、バンドメンバー、そして隣にいる遼——ここに戻ってこない理由はなかった。
「……そうか。楽しみにしてる」
遼はそれだけを言って、水を一口飲んだ。
満員の観客が桜影の登場を待ち、ざわめきと期待感が渦を巻いている。
暗転したステージ。
次の瞬間、静寂を切り裂くようにドラムが一発、力強く鳴り響いた。
ダン!
真琴がスティックを高く掲げ、ライトが一斉に照らされる。
ギターの樹里が、ドラムに合わせて強烈なリフを刻む。
ベースの早紀がリズムを支え、詩音のカウントが入る。
「行くぞ、お前ら——!」
“桜影の夜”、開幕。
最初のロックナンバーが鳴り響くと、観客が一気に熱狂する。リズムに乗り、ステージ前方に押し寄せるファンたち。
真琴は、迷いなく王子様キャラを演じていた。ステージ上では、これが自分の役割。
私が、みんなを夢中にさせる——。
一音一音に、バンドの歴史を刻み込むように演奏する。
詩音の力強い歌声、樹里のエネルギッシュなギター、早紀の安定したベース、
そして、自分のリズムがバンドを支える。
最初の3曲が終わり、観客の歓声が鳴り響いた。
真琴は、マイクを手に取り、MCに入る。
「今日は来てくれてありがとう!」
王子様スマイル。
「高校最後のライブ、最高に楽しんでいこうぜ!」
客席から「真琴様ー!」と歓声が飛ぶ。
その反応に微笑みながら、次のセクションへと進む。
「さて、ここからはちょっと雰囲気を変えるぜ?」
樹里がギターをかき鳴らしながら、観客を煽る。
「桜影の ‘もう一つの顔’ を見せてやるよ」
詩音が、ステージ中央に立つ。観客の期待が高まる中、軽快なイントロが流れた。
「行くよー!」
詩音が指をくるくる回しながら、アイドルスマイルを炸裂させる。
弾けるような笑顔、キュートな振り付け、キラキラと輝くステージ。
さっきまでのロックバンドのメンバーとは思えない——!
観客の驚きの声が漏れる。
特に男子のファンたちは、目を輝かせながらリズムに乗っている。
「はいっ! みんなも一緒にー!」
手拍子が起こり、会場が一体となる。
詩音のアイドル歌謡は、観客を完全に巻き込んでいた。
曲が終わると同時に、ステージが暗転。再びライトがステージを照らすと、着物を着た詩音が立っている。
先ほどのはじけるような笑顔は消え、落ち着いた微笑みをたたえている。
ギターがイントロを奏でる。
詩音が、深く息を吸い込んだ。
そして——。
先ほどとは全く違うその歌声に、会場が一瞬で飲み込まれた。
観客が驚きの表情を浮かべ、しんと静まり返る。
真琴も、何度も聴いてきたはずの詩音の演歌に、背筋が震えた。
……すごい。
深く響く歌声、情感たっぷりのビブラート、そして大げさすぎない抑揚。
プロの演歌歌手が歌っているのかと錯覚するほどの完成度だった。
観客がじっと聴き入る中、詩音が視線を上げる。
その瞳には、涙が光っていた。
最後のフレーズが響き渡り、静寂が訪れる。
次の瞬間——。
「すげぇ……!」
誰かの呟きが聞こえた。
そして、会場中が割れんばかりの拍手に包まれる。
静まり返る会場。
詩音がステージ中央で余韻をかみしめる中、樹里が静かにギターを弾き始めた。
優しく、でも、どこか切なく、まるで歌手がバラードを歌うかのように情感を込める。
そして、最後には力強く……。
樹里が最後の音を鳴らすと、会場が静寂に包まれる。
静寂の中、一瞬の間を置いて——
「うおおおおおおおお!!!」
歓声が一気に爆発した。
「ここから、もう一回、ぶち上げていくぞ!!」
真琴が叫ぶと、樹里がギターを炸裂させる。
最高潮のテンションで、アップテンポのロックナンバーへ。
泣きのギターの余韻を振り払うように、会場の熱気が再燃する。
桜影の音楽が、観客と一体になった瞬間だった。
ラストの曲が終わった瞬間、会場が一瞬の静寂に包まれた。
その直後——。
「桜影!!!」
誰かが叫ぶと、それに続くように、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。
「アンコール!!!」
「真琴先輩ー!!!」
無数の声が会場を満たし、アンコールを要求する拍手が続く。
樹里がニヤリと笑い、「アンコール行くぞ」とギターのストラップを掛け直す。
早紀が軽くベースを鳴らしながら、静かに頷く。
詩音が「よーし!」とマイクを手に取り、観客を煽る。
「行くよ! 最後の最後まで、ぶち上がっていこう!!!」
「おおおおおおお!!!」
歓声が爆発した。
イントロが鳴る。
観客が一斉に跳び上がるように盛り上がり、桜影は高校最後の曲に突入した。
真琴のスティックがリズムを刻み、樹里のギターが唸りを上げ、早紀の低音が地を這い、詩音の歌声が天井を突き抜ける。
全員が、この一瞬のために全力を注いでいた。
……これが、高校最後のステージ。
曲の終盤——。
真琴は一度、深く息を吸った。
バンドが一斉に音を止めた。
真琴はスティックを大きく振り上げ、ドラムソロが始まる。
バスドラムが響き、スネアが炸裂する。軽快なハイハットワーク、力強いフィルイン。
観客の歓声がさらに高まり、誰もが目を奪われている。
私は——このバンドのドラマーなんだ!
体の芯から湧き上がるエネルギーを、スティックに込める。
心臓の鼓動とリズムが重なり、会場の熱気がドラムの音に乗って広がっていく。
やがて、スネアの炸裂する一発で、全ての音が止まった。
会場が一瞬、静寂に包まれる。
その後——。
「桜影!!!」
爆発するような歓声。
名前を叫ぶ声、拍手、興奮に満ちた叫び。真琴は、スティックを握りしめたまま、仲間たちを見た。
樹里も、詩音も、早紀も、満面の笑みを浮かべていた。
真琴は、ステージ上で肩をたたきあう3人を見て「最高だったな」とつぶやいた。ライブが終わり、Beat Cellarのフロアには興奮冷めやらぬ熱気が残っていた。
◇◇
観客たちが名残惜しそうに帰っていく中、桜影のメンバー4人は、そのまま打ち上げに残ることにした。
カウンター席に腰を下ろすと、マスターがグラスを拭きながら苦笑する。
「お前ら……いやぁ、今日は本当にやられたよ。まさかあそこまでのライブになるとはな」
「ふふん、でしょ?」樹里が得意げに腕を組む。
「アイドルから演歌、泣きのギター、そしてロックのぶち上げ……こんなバンド、他にいないって」
「私たちにしかできないライブをしようと思ってたから」真琴が微笑む。
「まさにそれだったな。」マスターが感慨深げに頷く。
詩音は「マスターのリアクションが一番嬉しいかも!」と無邪気に笑い、早紀も「確かに、今日のライブは特別だったわね」と静かに言った。
遼は、カウンターの少し奥に座って、無言でグラスの水を揺らしていた。
真琴はその隣に座る。
「マスター、真琴にコーラを」遼が注文する。
マスターがグラスにコーラを注ぎ、真琴の前に置いた。
「ありがと」
「ライブの余韻に浸るのもいいが……卒業後は、どうするんだ?」
「……戻ってくるよ」
真琴は迷いなく答えた。
Beat Cellarの空気、バンドメンバー、そして隣にいる遼——ここに戻ってこない理由はなかった。
「……そうか。楽しみにしてる」
遼はそれだけを言って、水を一口飲んだ。