いつまでも、夢見せる王子じゃいられない

クリスマスイブの夜

 クリスマスイブの夕方、2人は高層ビルの展望フロアにいた。
 ガラス張りの窓の向こうには、高層ビル群と港が広がっている。

「せっかくだから、クリスマスイブだけの特別なイルミネーションがいいだろ」
 遼の言葉に、真琴は外の景色に目を向けた。

 陽が落ち始め、オフィスビルの窓がぽつぽつと光を灯し始める。
 やがて、辺りが暗くなるとともに、ビルというビルがライトアップし、街全体が輝き出した。
 ビルがまるで光のオブジェのように立ち並び、道路沿いのライトアップされた並木と相まって、幻想的な光景を生み出している。

「すごい……」
 真琴は思わず、ため息混じりに呟いた。
 まるで、光の絨毯が、足元から遠くの港まで広がっているようだ。
「……イルミネーションって、こんなに綺麗なんだ」
 真琴が素直に言うと、遼は得意げに微笑んだ。
「気に入ってもらえてよかった」
「うん」
 真琴も、つられて微笑む。

「……この景色も、建築の視点で見るとまた面白いんだ」
 ふいに、遼がガラス越しに広がる光景を指さした。
「ほら、あの高層ビル群。照明のパターンがビルごとに違うの、気づいたか?」
「え?」
「単に ‘光らせてる’ わけじゃない。建物の用途によって ‘見せる’ ための光と ‘働く’ ための光がある」
 遼の言葉に、真琴は改めて街を見渡した。
 確かに、オフィスビルの窓は等間隔に光っているのに対し、ホテルや商業施設はデザイン的にライトアップされている。

「ライブもそうだろ?」
「え?」
「ステージでも照明が演出をするように、建築も ‘光の演出’ を計算してる。普段の都市の夜景だって、設計された ‘イルミネーション’ なんだよ」
「……遼って、やっぱりすごいよな」
 何気なく呟いた言葉に、遼は少し目を細めた。

「……こんなに綺麗な景色を見たのって、初めてだよ」
 真琴は、窓の向こうの光に見惚れながら、ぽつりと呟いた。
 イルミネーションそのものが美しいのはもちろん。でも、それだけじゃない。

 隣に遼がいるから、この景色は特別に見えるのかもしれない。
 ……そんなこと、口に出せるわけないけど。

 ふと気づくと、2人の距離が自然と近くなっていた。
 肩が、かすかに触れ合う。
 真琴は、そっと遼に寄りかかった。
 遼も、それを拒むことなく、静かに肩を抱く。

 窓の外には、まばゆい光の海。
 でも、それよりも——。
 寄り添った遼の温もりの方が、ずっと心地よく感じた。
< 29 / 31 >

この作品をシェア

pagetop