いつまでも、夢見せる王子じゃいられない
それぞれの道、でもバンドは続く
桜影の夜から4か月が経ち、冬の寒さが一層厳しくなる頃——
バンドメンバー全員の進路が決まった。
部室はエアコンが効いていて温かいが、窓の外にはちらほらと雪が舞っている。
練習ではなく、今日は「今後のこと」を話すために集まった。
「それで、早紀は?」
真琴が早紀に目を向けると、彼女はいつもの冷静な表情で答えた。
「第一志望に決まったわ。これからは、学業とバンドの両立ね」
「両立って……そんなに忙しくなるのか?」
樹里が腕を組みながら尋ねると、早紀は淡々と答える。
「まあ、それなりにね。でも、音楽は私の中で ‘好きなこと’ だから、やめるつもりはないわ」
「さすが、優等生やな」
樹里がニヤリと笑う。
「樹里は?」
「ウチ? まあ、大学には行くけど……正直、興味あるのは音楽だけやしなぁ」
「軽音サークルとか入るの?」
詩音が興味津々に聞くと、樹里は「いや、絶対入らん」と即答した。
「そんなんより、桜影の活動の方が楽しいやろ」
「だよね! 私もそう思ってた!」
詩音が嬉しそうに手を叩く。
「卒業しても、バンドやるんでしょ? じゃあ、問題なし!」
「うん。桜影は ‘ここで終わり’ じゃない」
真琴はそう言いながら、部室のギターやドラムセットを見渡す。
この部屋での活動はもうすぐ終わるけれど——
それは「終わり」じゃなくて「新しい始まり」。
「じゃあ、大学が違っても、バンドは続けるってことでいいんやな?」
樹里がみんなを見渡す。
「もちろん!」
詩音が真っ先に答え、早紀も小さく頷く。
「当然でしょ」
そして、真琴も改めて——
「うん、続ける」
そうはっきりと言った。
メンバーそれぞれ、進む道は違う。
でも、音楽で繋がっていることは変わらない。
桜影は、これからも続いていく。
◇◇
冬の冷たい風が吹き抜ける夕方。
桜影のメンバー4人は、Beat Cellarの扉を開けた。
「おー、来たな!」
カウンターの向こうからマスターが手を振る。
見慣れたライブハウスの空間。
ここで何度も何度も演奏をしてきた。
「今日はどうした?」
「お世話になったお礼と……報告をしに」
真琴が答えると、マスターは少し驚いたように眉を上げた。
カウンターに並んで座り、それぞれの進路を報告する。
「そうか。……で、バンドは?」
マスターの問いかけに、真琴は迷わず答えた。
「続けます」
すると、詩音が勢いよく言葉を重ねる。
「もちろん! だって、バンドやめるなんて考えたことないし!」
「そやな。ウチも、大学行くけど音楽は最優先や」
樹里も当たり前のように言う。
「私も、学業とのバランスは取るつもりだけど……やめるつもりはないわ」
早紀の言葉に、マスターはニッと笑った。
「ははっ、いいねぇ。お前ららしいや」
そして、ウイスキーグラスを磨きながら、ふとカウンター越しに真琴を見つめる。
「真琴、お前はどうだ?」
Beat Cellarは、真琴にとって特別な場所だった。
この場所で演奏することで、自分が何をしたいのか、何を大切にしたいのかが見えてきた。
「……私は、ここで得たものを大事にしたい」
「ほう?」
「専門学校で音楽を続ける。プロになれるかは分からないけど、やれるところまでやるつもり。私にとって、音楽は、 ‘私自身’ だから。」
マスターは少し驚いた顔をした後、満足げに微笑む。
「なるほどな。そりゃ、最高の答えだ」
すると——カウンターの奥の席から、静かに会話を聞いていた遼が口を開いた。
「……お前の音楽が ‘お前自身’ なら、迷う必要ないな」
「遼……」
「卒業しても、Beat Cellarの ‘桜影’ は消えない。いつでも帰ってこいよ」
遼はグラスを軽く持ち上げて、真琴に視線を向ける。
その仕草に、真琴の胸が熱くなった。
この場所には、いつだって帰ってこられる。
そう思うと、不安はもうなかった。
「まあ、大学生になったら、今まで以上に自由にやれるやろ」
樹里が肩をすくめると、詩音が「そうだよね! もっといろんなライブやりたい!」とウキウキしている。
「……いいか、お前ら」
ふと、マスターが少し真剣な表情になった。
「どこに行こうが、何をしようが、 ‘音楽を楽しむ’ ことを忘れんなよ」
その言葉に、4人は静かに頷いた。
「また、戻ってくるよ」
真琴がそう言うと、マスターは満足げに笑った。
「待ってるぜ、桜影」
その言葉に、4人は静かに頷いた。
バンドメンバー全員の進路が決まった。
部室はエアコンが効いていて温かいが、窓の外にはちらほらと雪が舞っている。
練習ではなく、今日は「今後のこと」を話すために集まった。
「それで、早紀は?」
真琴が早紀に目を向けると、彼女はいつもの冷静な表情で答えた。
「第一志望に決まったわ。これからは、学業とバンドの両立ね」
「両立って……そんなに忙しくなるのか?」
樹里が腕を組みながら尋ねると、早紀は淡々と答える。
「まあ、それなりにね。でも、音楽は私の中で ‘好きなこと’ だから、やめるつもりはないわ」
「さすが、優等生やな」
樹里がニヤリと笑う。
「樹里は?」
「ウチ? まあ、大学には行くけど……正直、興味あるのは音楽だけやしなぁ」
「軽音サークルとか入るの?」
詩音が興味津々に聞くと、樹里は「いや、絶対入らん」と即答した。
「そんなんより、桜影の活動の方が楽しいやろ」
「だよね! 私もそう思ってた!」
詩音が嬉しそうに手を叩く。
「卒業しても、バンドやるんでしょ? じゃあ、問題なし!」
「うん。桜影は ‘ここで終わり’ じゃない」
真琴はそう言いながら、部室のギターやドラムセットを見渡す。
この部屋での活動はもうすぐ終わるけれど——
それは「終わり」じゃなくて「新しい始まり」。
「じゃあ、大学が違っても、バンドは続けるってことでいいんやな?」
樹里がみんなを見渡す。
「もちろん!」
詩音が真っ先に答え、早紀も小さく頷く。
「当然でしょ」
そして、真琴も改めて——
「うん、続ける」
そうはっきりと言った。
メンバーそれぞれ、進む道は違う。
でも、音楽で繋がっていることは変わらない。
桜影は、これからも続いていく。
◇◇
冬の冷たい風が吹き抜ける夕方。
桜影のメンバー4人は、Beat Cellarの扉を開けた。
「おー、来たな!」
カウンターの向こうからマスターが手を振る。
見慣れたライブハウスの空間。
ここで何度も何度も演奏をしてきた。
「今日はどうした?」
「お世話になったお礼と……報告をしに」
真琴が答えると、マスターは少し驚いたように眉を上げた。
カウンターに並んで座り、それぞれの進路を報告する。
「そうか。……で、バンドは?」
マスターの問いかけに、真琴は迷わず答えた。
「続けます」
すると、詩音が勢いよく言葉を重ねる。
「もちろん! だって、バンドやめるなんて考えたことないし!」
「そやな。ウチも、大学行くけど音楽は最優先や」
樹里も当たり前のように言う。
「私も、学業とのバランスは取るつもりだけど……やめるつもりはないわ」
早紀の言葉に、マスターはニッと笑った。
「ははっ、いいねぇ。お前ららしいや」
そして、ウイスキーグラスを磨きながら、ふとカウンター越しに真琴を見つめる。
「真琴、お前はどうだ?」
Beat Cellarは、真琴にとって特別な場所だった。
この場所で演奏することで、自分が何をしたいのか、何を大切にしたいのかが見えてきた。
「……私は、ここで得たものを大事にしたい」
「ほう?」
「専門学校で音楽を続ける。プロになれるかは分からないけど、やれるところまでやるつもり。私にとって、音楽は、 ‘私自身’ だから。」
マスターは少し驚いた顔をした後、満足げに微笑む。
「なるほどな。そりゃ、最高の答えだ」
すると——カウンターの奥の席から、静かに会話を聞いていた遼が口を開いた。
「……お前の音楽が ‘お前自身’ なら、迷う必要ないな」
「遼……」
「卒業しても、Beat Cellarの ‘桜影’ は消えない。いつでも帰ってこいよ」
遼はグラスを軽く持ち上げて、真琴に視線を向ける。
その仕草に、真琴の胸が熱くなった。
この場所には、いつだって帰ってこられる。
そう思うと、不安はもうなかった。
「まあ、大学生になったら、今まで以上に自由にやれるやろ」
樹里が肩をすくめると、詩音が「そうだよね! もっといろんなライブやりたい!」とウキウキしている。
「……いいか、お前ら」
ふと、マスターが少し真剣な表情になった。
「どこに行こうが、何をしようが、 ‘音楽を楽しむ’ ことを忘れんなよ」
その言葉に、4人は静かに頷いた。
「また、戻ってくるよ」
真琴がそう言うと、マスターは満足げに笑った。
「待ってるぜ、桜影」
その言葉に、4人は静かに頷いた。