いつまでも、夢見せる王子じゃいられない

完璧な王子様?

 ステージの照明が煌めく。
 スティックをくるくると回し、軽く片目をつぶると、客席の女の子たちから歓声が上がった。

「キャー! 真琴せんぱーい!」
「カッコいい!!」
「今日も最高!!」

 いつものことだ。
 王子様キャラとしての自分は、完璧に機能している。

 でも……軽快なリズムを刻みながらも、心の中に広がる違和感を止められなかった。
 この "キャラクター" を演じるのは得意だ。もう2年もやってきたし、求められるままに振る舞うのも慣れている。

 それなのに。なんで、こんなに息苦しいんだろう。以前はこんな気持ちにならなかった。
 でも今は――このキャラが、少しずつ窮屈になっていく。

 ライブは盛り上がり、熱狂のまま幕を閉じた。歓声と拍手を浴びながら、真琴はステージを降りる。
 ……今日も "王子様" は完璧だった。

 けれど、その完璧さが、ますます違和感を膨らませていく。

   ◇◇

 前回は、遼と話したくて初めて打ち上げに残った。でも今日は――違和感を抱えたまま、隅の席に座っていた。
 本当なら、今日もすぐ帰るつもりだった。でも、なんとなく足が向いてしまった。

「……」

 グラスの中の氷がカランと鳴る。
 周囲の賑やかな声が遠く感じられた。
 すると、不意に隣の席が沈む感覚がした。

「……」

 顔を上げると、そこには遼がいた。
 何も言わず、ただ静かに隣に座っている。
 少しの沈黙のあと、彼は何気なく呟いた。
「お前、ドラム叩くときはすごい楽しそうなのに、なんでそんな顔してんの?」
「……っ」
 その一言が、まるで自分の心を見透かされているようで、息が詰まる。
「……王子様でいるしかないから」
 絞り出すように言うと、遼はゆっくりと微笑んだ。
「そんなの、ただの役割だろ」
……役割か
「お前は、お前でいい」
「……」
 その言葉が、すごくまっすぐで――胸の奥にストンと落ちた。

「変わりたくなければ、変わらなくてもいい」
 遼は静かに続ける。
「俺は、王子様の真琴も、今ここにいる真琴も、どっちも好きだ」
「……っ」
 時が、止まった。どっちも……好き?

 たったそれだけなのに、涙が込み上げてくる。
 "王子様" を演じる私も、素の私も受け入れてくれる?
 遼の言葉が優しくて、胸がいっぱいになった。
「……ちょっと、ずるい」
 震える声でそう呟いた瞬間、堪えきれなくなって、そっと彼の肩に寄りかかった。
「……」
 涙がこぼれた。
 遼は何も言わず、そっと寄り添ってくれた。

 静かに、でも確かに、真琴の心の中で "何か" が変わり始めていた――。
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