いつまでも、夢見せる王子じゃいられない
近くて遠い
真琴は、ライブハウス「Beat Cellar」に足を運べずにいた。
本当は行きたい。
遼に会いたい気持ちはある。
けれど、学校での噂は日に日に広がり、「王子様の彼氏疑惑」は延焼し続けていた。
後輩たちの視線もどこか探るようになり、教室や廊下での小さな囁きが耳に残る。
……なんか、面倒になってきた。
行けば、また誰かに見られるかもしれない。
また、何かを言われるかもしれない。
そう思うと、気軽に足を運べなくなった。バンドのライブ活動も間が空いてしまっている。
次の予定も決まらないまま、気づけば週末になっていた。
◇◇
そんな真琴の変化を、一番敏感に察知したのは樹里だった。
「マコっちゃん、最近なんか変じゃね?」
そう言っていたのは数日前のことだ。
バンド練習のときも、どこか浮ついている。
遼の名前が出ると、妙にそっけなくなる。
何より――ライブハウスに行こうとしない。
……絶対、何かあったな。
そう思った樹里は、放課後、単身「Beat Cellar」に向かった。
「Beat Cellar」に入ると、マスターがカウンター越しに軽く手を挙げた。
「お、樹里ちゃん。今日はどうしたの」
「マスター、ちょっと聞きたいことがあんだけどさ」
「なんだい?」
樹里が椅子に腰を下ろし、真琴が最近ここに来ていないことを話すと、マスターは苦笑いした。
「そういえば、この前、変なのが来たよ」
「変なの?」
「女子高生がさ、"真琴先輩に関わらないで" って言いに来たんだよ」
「は?」
「遼に向かってさ、"真琴先輩はみんなの王子様なんです! だから、あなたみたいな人と一緒にいちゃダメなんです!" ってさ」
「……マジ?」
「マジマジ。で、遼の反応がまた面白かったよ」
マスターはグラスを拭きながら肩をすくめた。
「"それ、俺に言うこと?" って、すっげえ冷静に返してさ」
「……っぷ!」
思わず樹里は吹き出した。
「……いや、マジで想像つくわ、それ」
「あとは"真琴が決めることだろ" って、それだけ言ってたな」
「……うわ、めっちゃ遼さんっぽい」
マスターは苦笑いしながら続ける。
「結局、相手にされずに、その子は帰っていったよ」
樹里はすぐに思い当たった。
「細っこくて、黒髪のロングで、前髪ぱっつん」
「そうそう」
「間違いなく、篠原凜花だ」
あいつ、やりそうだもんな……
噂を聞いて、一番動揺していたのは凜花だったし。
「……で、真琴は知ってるの?」
「いや、言ってないけど?遼もわざわざ、そんなこと知らせないだろうし」
マスターはさらりと答える。
「彼女が自分で来るまで、待ってるつもりだと思うよ」
◇◇
翌日、放課後の軽音部部室。
「……ってなわけで、凜花が直談判しに行ったらしいよ」
樹里は、飄々とした口調で話しながら、真琴の様子をうかがった。
「で、遼さんは、まあ、全然相手にしなかったみたいだけど」
「……」
真琴は黙って話を聞いていたが、その目はわずかに揺れている。
「で、マコっちゃん、どうすんの?」
「……何が?」
「このまま行かないん?」
「……」
真琴は答えなかった。
けれど、その沈黙こそが、何よりも気持ちを表していた。
本当は行きたい。
遼に会いたい気持ちはある。
けれど、学校での噂は日に日に広がり、「王子様の彼氏疑惑」は延焼し続けていた。
後輩たちの視線もどこか探るようになり、教室や廊下での小さな囁きが耳に残る。
……なんか、面倒になってきた。
行けば、また誰かに見られるかもしれない。
また、何かを言われるかもしれない。
そう思うと、気軽に足を運べなくなった。バンドのライブ活動も間が空いてしまっている。
次の予定も決まらないまま、気づけば週末になっていた。
◇◇
そんな真琴の変化を、一番敏感に察知したのは樹里だった。
「マコっちゃん、最近なんか変じゃね?」
そう言っていたのは数日前のことだ。
バンド練習のときも、どこか浮ついている。
遼の名前が出ると、妙にそっけなくなる。
何より――ライブハウスに行こうとしない。
……絶対、何かあったな。
そう思った樹里は、放課後、単身「Beat Cellar」に向かった。
「Beat Cellar」に入ると、マスターがカウンター越しに軽く手を挙げた。
「お、樹里ちゃん。今日はどうしたの」
「マスター、ちょっと聞きたいことがあんだけどさ」
「なんだい?」
樹里が椅子に腰を下ろし、真琴が最近ここに来ていないことを話すと、マスターは苦笑いした。
「そういえば、この前、変なのが来たよ」
「変なの?」
「女子高生がさ、"真琴先輩に関わらないで" って言いに来たんだよ」
「は?」
「遼に向かってさ、"真琴先輩はみんなの王子様なんです! だから、あなたみたいな人と一緒にいちゃダメなんです!" ってさ」
「……マジ?」
「マジマジ。で、遼の反応がまた面白かったよ」
マスターはグラスを拭きながら肩をすくめた。
「"それ、俺に言うこと?" って、すっげえ冷静に返してさ」
「……っぷ!」
思わず樹里は吹き出した。
「……いや、マジで想像つくわ、それ」
「あとは"真琴が決めることだろ" って、それだけ言ってたな」
「……うわ、めっちゃ遼さんっぽい」
マスターは苦笑いしながら続ける。
「結局、相手にされずに、その子は帰っていったよ」
樹里はすぐに思い当たった。
「細っこくて、黒髪のロングで、前髪ぱっつん」
「そうそう」
「間違いなく、篠原凜花だ」
あいつ、やりそうだもんな……
噂を聞いて、一番動揺していたのは凜花だったし。
「……で、真琴は知ってるの?」
「いや、言ってないけど?遼もわざわざ、そんなこと知らせないだろうし」
マスターはさらりと答える。
「彼女が自分で来るまで、待ってるつもりだと思うよ」
◇◇
翌日、放課後の軽音部部室。
「……ってなわけで、凜花が直談判しに行ったらしいよ」
樹里は、飄々とした口調で話しながら、真琴の様子をうかがった。
「で、遼さんは、まあ、全然相手にしなかったみたいだけど」
「……」
真琴は黙って話を聞いていたが、その目はわずかに揺れている。
「で、マコっちゃん、どうすんの?」
「……何が?」
「このまま行かないん?」
「……」
真琴は答えなかった。
けれど、その沈黙こそが、何よりも気持ちを表していた。