The previous night of the world revolution5~R.D.~

sideルレイア

───────…『frontier』のライブ会場で問題が起きたと聞いたから、駆けつけてみれば。

一体何の騒ぎだ、これは。

「…これは何事です」

俺は、近くを通りかかった会場スタッフに声をかけた。

「い、今それどころでは」

俺が誰かを知らないらしいスタッフは、俺の質問を無下に払い除けようとした。

俺は、一瞬でぶちギレた。

「これは何事かと聞いてるんですよ…俺が」

「ひっ…!」

「本物」の殺気を向けられたスタッフは、恐怖に顔をひきつらせた。

「…会場の責任者を呼んできなさい。ルレイア・ティシェリーが来たと伝えなさい」

「は、はい…」

この言葉に逆らってはいけないと、本能的に感じたのだろう。

スタッフは、急いで会場の責任者を呼びに行った。

責任者は、全力疾走で俺のもとに駆けつけた。

改めて、俺は彼に尋ねた。

「この騒ぎは何です」

「そ、それが…」

「さっさと言わないと…」

「ひっ…。で、デモです。デモが起きたんです!」

…デモだと?

「誰が?」

「『天の光教』と名乗っています。国民が生活に苦しんでるのに、こんな贅沢なライブは許さないって…。即刻ライブを中止しろと訴えています。刃物とプラカードを持って…」

「…」

俺は、一瞬で考えを巡らせた。

「…あ、あの…?」

うるせぇ。

「…観客は?この場にいる観客は、デモのことを知ってるんですか」

「い、いえ、まだ…。でも、説明なしにホールから閉め出されているので、観客たちの怒りが…」

あぁ、成程。

それでさっきから、観客達の気が立っているのか。

早く中に入れろ、どうなってるんだ、と。

だが、デモのことを話さなかったのは、よくやった。

「宜しい。観客には、会場内の火災報知器の誤作動が起きて、緊急点検中だと伝えなさい」

「は、はい」

「決して、デモが起きたなんて話さないこと。観客の安全を第一に優先してください」

『frontier』のライブでデモが起きたなんて知られたら、『frontier』のブランド名に傷がつく。

それだけは避けなくては。

すると、責任者がおずおずと申し出た。

「あの…。デモ隊はどうしましょう?警察に…」

「馬鹿ですか、あなたは」

警察に?そんなことしたら、観客への欺瞞工作が台無しだ。

「警察にも帝国騎士団にも通報しません。こちらで解決します」

「私が殴り倒してこようか?」

ベーシュさんが、握り拳を作って首を傾げた。

あなたという人は。なんて勇敢だ。

この志は高く評価する。

しかし。

「万一あなたに怪我の一つでも出来たら、今日のライブに支障が出ます。あなた方は代わりのいない大事な要人ですから、申し訳ないですけど、少しここで待っててもらっても?」

「うん、分かった」

「だ…大丈夫なんですか?」

不安げなルトリアさん。

全く。ただでさえ本番前は緊張で大変なルトリアさんに、要らぬ心配をさせてしまうとは。

「問題ありませんよ。刃物を持った素人のデモ隊なんて、俺の敵じゃありませんから」

俺はルトリアさんを安心させる為に、にっこりと微笑んだ。

…つもりなのに。

むしろルトリアさんは、悪魔の微笑みでも見たかのように、顔をひきつらせていた。

あれぇ。俺の業務用スマイルが、効いてないぞ。

すると、後ろで事の経緯を聞いていたルルシーがそっと耳打ちした。

「…行くなら、俺も行くぞ」

あらぁ。ルルシーったらまた心配性。

「大丈夫ですよ。刃物っつったって、精々包丁やカッター程度でしょう」

「それでもだ。でなきゃ行かせんぞ」

「はいはい。分かりましたよ…もう」

ルルシーったら、本当に心配性なんだから。

俺を止めたいなら、せめて戦車の一台でも持ってこないと、話にならないってのにな。
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