The previous night of the world revolution5~R.D.~
俺達三人は、関係者専用入り口から、こっそりと侵入した。

デモ隊は、会場内のメインホール入り口で座り込んでいるとか。

居場所が分かってるなら、話が早い。

「二人共、拳銃の使用は原則避けてください」

可能な限り、ホール内を傷つけたくはない。

それに、サイレンサーをつけているとはいえ、拳銃の発砲音が外の観客に聞かれたら、厄介なことになる。

「分かった」

「了解だ。ルレイア先輩」

二人共、心得たというように頷いた。

さて、では行こうか。

『天の光教』のデモ隊は、メインホールの入り口でプラカードを片手に、座り込んでいた。

プラカードには、『贅沢を許すな』、『全ての国民に平等な愛を』、『神に帰依せよ』等々書かれていた。

何馬鹿なこと言ってんだ、こいつらは。

頭でも狂ってんのか。

「…?誰だ!?」

俺達の接近に気づいたらしく、プラカードを持った男がこちらを向いた。

「…それはこっちの台詞ですよ」

勝手に入り込んで居座っておいて、誰だ、はねぇだろ。

お前らが誰だ。

「あなた方が何者かは知りませんけど、お引き取り願えませんかね?ここは今日、『frontier』というアーティストがライブを行う場所なんですよ。あなた方に居座られると迷惑で、」

「何がライブだ!一部の国民が飢えに苦しんでるときに、そんな呑気なことを、」

「人様が親切に話してるんだから、最後まで聞きやがれ!」

俺は、思いっきり壁を殴った。

マフィアの気迫に、デモ隊達も怖じ気づいたのだろう。

怯えた顔をひきつらせていた。

「…お前も最後まで聞いてないけどな」

ちょっとルルシー?今良いところだから。

「こちとら商売なんですよ。このライブ一つ取っても、それなりの金と労力をかけてるんですよ」

今回のライブで、どれだけの金が動いてると思ってる。

帝都でも有数のコンサートホールであるこの会場を借り受け、何千人ぶんの席を確保し。

CDや限定特典やライブグッズや、ありとあらゆるものを生産し。

チケットも無事完売し、ライブグッズの事前販売の売れ行きも好調。

そしてようやく、今日というこの日を迎えた。

この日の為に、スポンサーである俺達も含め、どれだけの人間が金を落としたと思う?

それなのに、こんな偽善ぶった馬鹿共のせいで、ライブを台無しにされたら。

今日までにかかった費用と労力は、全て水泡に帰してしまう。

それどころか、『frontier』というブランド名に傷がつき、今後の活動にも影響が及ぶ。

こちとら商売なんでね。

邪魔されちゃ困るんだよ。

「殺されたくなかったら、とっとと出ていけ。何が神だ。何が愛だ!こんなところで居座って、大勢の人間に迷惑をかけるような神が、慈愛もへったくれもあるか!」

良いか、俺はな。

綺麗事ってのが、心の底から大っ嫌いなんだよ。

こうして贅を尽くしてる間にも、飢えている国民がいる?

知るか。そんな者のことを考えるのは、帝国騎士団の仕事だ。

マフィアの仕事は、そんな飢えている国民を殴り付け、最後の一銭まで搾り取り、その骸を地面に引き倒して踏みつけること。

残虐だと言われようが、非道だと言われようが、俺達の知ったことではない。

俺はデモ隊のプラカードを奪い取り、床に叩きつけて、思いっきり踏みつけた。

木製のプラカードが、バキッ、と音を立てて割れた。

「…消えろ、偽善者共。今すぐ、俺の前から」

彼らは、本気のマフィアの殺気に耐えられなかった。

このままでは本当に殺されると思ったのか、割れたプラカードを急いで拾い、慌ててホールから逃げ出していった。
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