The previous night of the world revolution5~R.D.~
何度も言うが。

俺はフューニャに、食べることで二度と苦労させたくはない。

今日何を食べようか、明日は何を食べようかなんて心配は、決してさせたくない。

食べたいものを我慢させることすら、させたくないのだ。

食べることに関する苦労は、祖国で散々したのだから。

俺のもとに来たからには、もう二度とそんな苦労はさせない。

ひもじい思いだけは、絶対にさせない。

「分かった。気づかなくて悪かった、フューニャ」

フューニャの方から言わせてしまうなんて、お義姉さんに殴られても文句は言えないな。

「今月から食費を増やそう。とりあえず二万円くらい増額して…」

そうすれば、だいぶ余裕が出来るだろう。

と、思ったが。

「何を言ってるんです。私は別に、食費を増やして欲しい訳じゃありません」

「…え?」

「質素倹約令を発令する、と言ったでしょう」

…言ってたね。さっき。

「食費を増やしてもらう必要はありません。ただ、これからは出費を抑えて、節約メニューを作ることにするので、我慢してくださいというお願いです」

「…」

「勿論、ボリュームは今のまま変わりません。ただ、食材を安いものに変えたり、晩酌を我慢してもらいます。それで持ちこたえられるでしょう」

…異議あり。

大いに異議ありだ。

「…それは駄目だ、フューニャ」

フューニャが「そうしたい」と言うことなら、基本的には何でも好きなようにして良いと思ってるが。

それだけは、許容出来なかった。

「何で駄目なんです?」

「ルティス帝国が不況なのは、俺も知ってるよ。皆が『守り』に入ってて、節約しなきゃならない風潮なのも分かる…」

皆が財布と相談しながら、特売の広告とにらめっこしながら、買い物をしてる主婦の皆様方の姿を見れば。

そりゃあ、うちも節制しなければ、と思うのは当たり前。

その気持ちは分かる。

でも、駄目だ。

「俺はフューニャに、二度と衣食住で苦労させないと決めたんだ。うちは、別に金に困ってる訳じゃない。無理に節約する必要はない」

今のところ『青薔薇連合会』は以前と変わりないし、俺は一応準幹部の身分だから、いざとなってもそれなりの蓄えはある。

そりゃ綺麗な金ではないかもしれないが、それでも金は金だ。

「フューニャに窮屈な思いをして欲しくないんだよ。俺は」

その種の苦労なら、祖国で散々したはずだ。

もう二度と思い出して欲しくない。

「そんな大袈裟な…。窮屈なんかじゃありませんよ。節約するのは慣れてますし」

「だから嫌なんだよ。折角お前はマフィアの準幹部の妻になったんだから、財布のことは気にしなくて良い。好きなように使ってくれ」

ブランド物のバッグを買いたいとか、ダイヤの指輪を買いたいとか、そういう贅沢じゃないんだ。

たった数百円の食材くらい、気にせず何でも買ってくれ。

「…全く。過保護なんですから、あなたは」

「…過保護でも何でも良い」

それでフューニャを守れるなら。

「でも、あなたは誤解しているようですね」

「…誤解?何を?」

「節約しようと思ったのは、あなたのお財布の心配と言うより、私の意地です」

…意地、だと?
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