The previous night of the world revolution5~R.D.~
…おかしい。

私の頭の中にあるのは、それだけだった。

「ルチカ様、◯◯ホールでの講演も駄目でした。空きがあるのは半年以上先だと…」

「ルチカ様、◯◯地区の信者20名が、『天の光教』から脱退したいと要請が…」

「△△地区の信者からも、脱退要請が…」

「来月予定されていた『天の光教』特別番組を、音楽番組に変更させてもらいたいと、テレビ局から連絡が…」

「…」

信者達から告げられる報告の数々を、私は黙って聞いていた。

…おかしい。

何故、こんなことになる?

私は、正しいことをしているはずなのに。

神の愛に触れることは、何より尊いはずなのに。

講演会が出来ない?

信者が脱退する?

音楽番組を放送する?

何だ、その下らない報告は?

神の教えを聞くよりも大事なことが、優先すべきことが、他にあると?

…おかしい。

有り得ない。信じられない。

すると、そこに。

「あのぅ…ルチカ様…」

「…何です」

『天の光教』でも、幹部格だった青年が、おずおずと私の前に歩み寄った。

「申し訳ないのですが…。今日限りで、『天の光教』を脱退させてもらえないでしょうか…」

「…!」

…何だって?

これには、傍にいた他の信者達も黙っていなかった。

「お前、なんてことを言うんだ!」

「そうだ!神の道に殉じると誓ったではないか!」

「そ、そうですが…」

彼は、仲間達に責められて、泣きそうになりながら言葉を返した。

「娘が、小学生の娘が、いじめられてるって言うんです。父親が『天の光教』の幹部だと知られて、そのせいでクラスメイトにからかわれて…!」

…。

「自分のことは良い。でも、そのせいで娘がいじめられるのは…!お願いです、娘の為にも…。『天の光教』を抜けさせてください…!」

「…」

彼の切実な訴えに、他の信者達は、何も言わなかった。

…何故、何も言わない。

娘がいじめられてる?

父親が『天の光教』の幹部だということで?

何故そうなる。

肉親が『天の光教』の信者で、しかもそこで幹部の役職を与えられているなんて、この上ない名誉ではないか。

「…子供には、まだ分からないのです。言いたい者には、言わせておきなさい。憐れな子供達も、いずれ大きくなれば、自分達がいかに愚かであったか気づくでしょう」

大きくなって、『天の光教』の教えを…神の愛を知れば…信者をからかうなどという愚かなことは、しなくなるだろう。

娘もきっと、父親が『天の光教』の幹部であることを誇りに思って…。

それなのに。

「…それでは遅いんです。娘は、今、今苦しんでるんです。今助けてやらないと…!まだ小学校一年生なんです。あと何年もいじめられるかと思うと…!」

…それが、どうしたと言うのだ。

神を敬うのに必要な代償なら。

「…その憐れな子供達に言いなさい。人は全て愛されるべき存在なのだと。神と共に、互いに愛し合うことで、私達は…」

「子供には、そんな理屈は通じません!」

「…!」

…理屈、だって?

「学校にももう行きたくないって言ってて…。折角出来た友達も離れていって…!これ以上見ていられないんです。どうか、今すぐ…」

「…黙りなさい」

私は、怒りのあまり、思わず声を震わせた。
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