The previous night of the world revolution5~R.D.~
「殿下!お姿が見えないと思ったら、何処に行っておられたんですか!」

「えぇっと…。…王宮の中、探検してました」

嘘八百。

実はマフィアの本拠地に単身乗り込んで、幹部と一騎討ちしてました、なんて言ったら。

レスリーは多分、失神することだろう。

とてもじゃないが、本当のことなんて言えない。

「見え透いた嘘はおやめください!また護衛もつけず、一人で街に降りていたんでしょう!?」

マフィアの本拠地に乗り込んでました、よりは。

一人で街に降りて、いかがわしい本の一冊でも買ってきました、の方が。

まだダメージは少ない気がする。

よし、そういうことにしておこう。

「あぁ…えぇ…。まぁ」

曖昧に言葉を濁す。

すると、レスリーの目の色が変わった。

「また!勝手に街に降りるのはおやめくださいと、何度言ったらお分かりになるのですか、あなたは!」

よし、マフィアの話は避けられそうだ。

怒られながらも、内心ホッとした。

「どうしてもと仰るなら、事前に護衛をつけて…」

「…それじゃ意味がないでしょう」

何度もあるよ。護衛をつけて、街に降りたことは。

最初の頃はそうだった。

僕が街に行きたいと言えば、姉のアルティシアを始め、帝国騎士団の皆様に事前承認を受け、護衛団を設立し。

何月何日何時何分の、何処其処に行くからそのつもりで、と各機関にお伺いを立て。

決められた場所の、決められた時間にだけ、視察という名目のもとにのみ街に降りることを許される。

当然その時間は、周囲に一般市民はいない。

完全に人払いが為されているからだ。

その時間だけ道路も封鎖され、ネズミ一匹入れないようになっている。

僕が視察出来る場所も決められていて、入れるのは精々、美術館や博物館、劇場その他公共施設、及び国内の観光地くらい。

美術館や博物館に入れば、学芸員がぴったりと僕の横にくっついて、この作品は何世紀に作られた誰それの作品で、とか。

この作品はいつぞやに発掘された、歴史的な逸品で、とか。

長ったらしい説明を、まるで台本でも読み上げているように延々と唱えられるだけ。

劇場に行っても、大衆が見るような喜劇は当然見せてもらえない。

僕が観ることを許されるのは、かの有名な劇団の作品やら、眠くなるようなピアニストやバイオリニストの演奏会くらい。

当然観覧席はVIP仕様で、周りに人なんていない。

そりゃあステージはよく見えるよ。Sランクの席だもん。

でも、興味のないものを最高の席で見せられても、結局興味はない訳で。

僕はもっとこう、大衆が好むものを見たいのだ。

美術館や博物館なんて、全く興味がない。

そんなものより、世間の奥様がしのぎを削る、スーパーの特売品売り場とか。

安さが売りの大衆ファッションセンターとか。

添加物がたっぷり入っていそうな、ファミリーレストランとか。

そういうところに行って、大衆に紛れて、一般人の暮らしを体現してみたい。

その為には、護衛なんか連れていくようでは駄目なのである。
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