The previous night of the world revolution5~R.D.~
その、最高に嬉しい日の帰り道。

俺は何度も婚約指輪を眺めては、にゅふふと笑っていた。

あぁ幸せ。

今日はとっても素晴らしい日だ。

何せ、ルルシーが俺と婚約してくれたのだから!

こんなに嬉しいことが、他にあるだろうか。

経済貢献もして、ルルシーとの婚約も果たす。

俺は幸せ。皆も幸せ。

るんるんと歩きながら、俺は大通りの一角に差し掛かった。

そこに、日傘を差して、片手に一冊の本を掲げた女性が立っていた。

「もしもし、そこのあなた」

「はい?」

俺は、その女性にいきなり呼び止められた。

何?この人。

ナンパか何かかと思ったら、その人はいきなり、何の脈絡もなく、こう聞いてきた。

「あなたは、神を信じていますか?」

「え?神は俺ですけど」

「…」

「…」

お互い、無言で見つめ合うこと数秒。

向こうはぽかーんとしていたし、俺もきょとんとしていた。

何を当たり前のこと聞いてんの?この人。

「まだ、何か用です?」

「あ、い、いえ。何でも…」

彼女は、キョドりながらすごすご引き下がった。

彼女の足元をよく見ると、段ボール箱の中に、透明なビニール袋で包装されたパンフレットみたいなものが、ぎっしり入っていた。

そして彼女の手には、経典らしき本。

あぁ…。この人、何か…宗教勧誘的な人か。

つい、素で答えちゃったよ。

ま、事実だし。

次の瞬間には、俺はこの人のことを頭の中から追い出し、再び幸せな気分で帰路に着いた。

これが、全てのきっかけになるとも知らずに。
< 37 / 627 >

この作品をシェア

pagetop