The previous night of the world revolution5~R.D.~
契約更新の場は、いつものホテルの一室だった。

帝都一等地にある、会員制の高級ホテル。

K企業との取引は、大抵ここで行う。

先にホテルに着いた私は、部屋で一人で先方が来るのを待っていた。

少し、早く着き過ぎてしまったか?

腕時計を確認するが、確かに約束よりは早めに来たが、早過ぎるということはない。

いつもなら、先方は既に到着して私を待っているはず。

ということは、私が早く着き過ぎたのではなく、先方が来るのがいつもより遅いのだ。

それでも待ち合わせ時間まではまだもう少しあるし、長年懇意にしている企業だから、多少遅れたところで、特に気にしないが…。

…何だか、嫌な予感がする。

私は不意にそう感じた。

何か根拠がある訳ではない。

単なる長年の、マフィアの勘だ。

今すぐに部屋を出ようと立ち上がった、その瞬間。

拳銃を構えた見知らぬ男達が、部屋の中に乱入してきた。

「…ちっ」

一足遅かった。

私は、咄嗟にスラックスのポケットに手を入れた。

「『青薔薇連合会』幹部、アイズレンシア・ルーレヴァンツァだな」

ルレイアなら、相手が拳銃を持っていようが何を持っていようが、恐れず突進していくだろう。

だが、私はルレイアほど武闘派ではない。

それなりの訓練は受けているものの、向こうは五人、こちらは一人。

それでも並みの相手ならどうにかなるが、見たところ、彼らは手練れのようだ。

下手に抵抗しても、痛い思いをするだけだろう。

私はポケットから手を抜いて、両手を上げた。

反抗する意思はない。

何処かに連れていきたいのなら、好きなようにしてくれ。

ただ、気になるのは。

「…君達は、何者?」

私を『青薔薇連合会』の幹部と知っていて、このような暴挙に出る。

正気の沙汰とは思えなかった。

彼らは答えず、代わりに私の口を塞ぎ、両手を乱暴に締め上げた。

激しい痛みが走ったが、私はそんなことより、執務室に残してきた彼のことを思い出した。

すぐさま、口許にハンカチが当てられた。

クロロフォルムだ。

薄れる意識の中で、私が戻らなかったら、アリューシャは心配するだろうな、と思った。
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