The previous night of the world revolution5~R.D.~
何故なら。

「…一応、聞いておきますけど」

「…」

「…これ、食べ物ですよね?」

「そこから!?そこからなの!?心配しなくても食べ物だよ!」

あぁ、ごめんなさいつい。

もしかしたら、抽象的な粘土細工かもしれないと思って。

見た目もそうだが。

何より、匂いが…何と言うか、およそ食べ物とは思えない異臭を放っている。

立場上、シェルドニア王国に訪問して、シェルドニアの郷土料理を食べたことがあるのだが。

あのときの衝撃に近い。

どんぶりの中には、原型が何だったのかさえ分からない、ゼリー状の惨殺死体みたいなものが、でろーんと乗っていた。

…うん。

仕事から帰ってきて、「今日はセカイお姉さんが夕飯作ったんだよ!」と、胸を張るセカイさんに迎えられ。

出てきたのがこれ。

「ちなみに、何を作ったんですか?」

「えぇっと…親子丼」

このどんぶりの中の、何処に親子が?

親も子も行方不明なんですけど。何これ?親子心中?

鶏肉はともかく、卵の黄色すら見当たらない。

「…」

スプーンで、でろーんとした塊(多分ここが親子の残骸)を退けて、どんぶりの下半分を覗く。

親子丼と言うからには、下には白米が敷き詰められている…はずなのだが。

…確かに、米粒らしきものは詰まっていた。

しかし、白いはずの米は何故か黄土色で、ボソボソなのにぐじゅぐじゅという、矛盾を孕んだ状態になっている。

しかも、白米の中に、謎の黒い粒や茶色の粒、グレーの粒が混じっていた。

…?

「…これ、食べ物ですよね?」

「また聞くの!?さっきも聞いたじゃん!食べ物だよ!」

「あぁ、済みません…」

なんかまた、不安になっちゃって。

これって、食べても良い奴?

「あ、あの…。見た目はちょっとアレだけど、食べてみたら美味しいかもよ」

「そうですね…」

シェルドニア料理もそうだった。

見た目はグロテスクなのだが、食べてみると意外に美味しい。

この残酷な親子丼も、見た目どころか匂いも最悪だが、食べてみれば意外に美味しいかもしれない。

その可能性は限りなく低そうだが。

何より、愛する新妻が、僕の為に頑張って作ってくれたものだからな。

食べない訳にはいかない。

心配は要らない。僕は、単身『青薔薇連合会』に挑んだ男。

親子丼(仮)くらいで、びびったりはしない。

ただし。

「…先に遺書書いてきて良いですか?」

「もー!大丈夫だってば!まずは食べてみて!」

「…」

…仕方ない。

今死んだら色々後悔することがあるだろうが、しかし愛妻に殺されるのなら本望。

僕はスプーンをどんぶりに突っ込み、口の中に入れた。
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