The previous night of the world revolution5~R.D.~
ルーチェスさん夫妻がくれたのは、アップルパイであった。

「うめぇ…」

「でしょう?」

こんな美味しいアップルパイは初めてである。

生地もさくさくしっとりしてるし、何より中に詰まってるりんごの、この程よい甘さ。

いくらでも食べられそうな味だ。

「これ、何処で買ったんだろうな…」

こんなに美味しいアップルパイを売る店なら、是非とも他の商品も試してみたい。

きっと美味しいはずだ。

しかし。

「それが、手作りらしいですよ」

「え、手作り?」

「しかも、奥さんじゃなくて、旦那さんの手作りだそうです」

嘘だろ。ルーチェスさんが?

あの人が、自分でこの絶品アップルパイを作ったと言うのか?

フューニャは、頬杖をついて愚痴った。

「それどころか、お隣さんは旦那さんが料理を作るそうですよ」

…そうなの?

「隣の芝は青いと言いますが、あれは本当ですね。料理上手な夫もいれば、少し目を離したらキッチンを魔境にする夫もいる…」

「うっ…」

それって…俺のことだよな?

耳が大激痛。

「お隣の奥さんが羨ましいですね…。はぁ…」

「…」

帰ってきたときから、いつもよりフューニャが冷たいのは、これか。

これが理由なのか。

お隣の夫は料理上手なのに、うちの駄目亭主と来たら…と。

とてもではないが、俺はこんな美味しいアップルパイなんて作れない。

そもそも、料理そのものが得意ではない。

しかも。

「お隣の旦那さんは、お洒落な料理をたくさん知っていて、お洒落な料理ばかりを作ってくれるそうですよ」

「お、お洒落な料理…?」

「キッシュとかアヒージョとか、アクアパッツァとか…」

やべぇ。めっちゃお洒落。

献立と言えば、肉じゃがとか、カレーくらいしか思い付かない庶民派の俺とは、大違い。

「しかも、牛テールのワイン煮込みなんてものも作ってくれたそうです」

…ワイン煮込みはともかく。

牛テールって、何だ。

牛の尻尾?

あれって食べれるの?尻尾だぞ?

もしかして、豚肉も尻尾食べたりするんだろうか。

そんなことさえ知らない俺。

料理に関して、無知にも程がある。

「料理上手な夫…。はぁ、羨ましい…」

「…」

何だろう。

俺は今、物凄い罪悪感に駆られている。

お隣の奥さんに、「うちの旦那、すっごく料理上手なんですよ~!」と言われ。

フューニャはきっと、恥ずかしかったに違いない。

それに比べてうちの夫は…と思ったに違いない。

そうだ。

「お、俺も料理練習するよ。お洒落な料理作って…」

「いいえ、あなたは駄目です。私が数日いないだけで、キッチンどころか家ごとまとめて魔境にする人を、どうしてキッチンに立たせられますか」

「うぐっ…」

あ、あれは…。

フューニャが留守にしていて…寂しかったからであって…。

「あなたの『俺が家事をやる』は、テスト前、勉強が出来る人の『俺、全然勉強してないよ』と同じくらい信用出来ませんから」

がーん。

そ、そんな…。

俺は…家事を許されないほどの駄目亭主だと言うのか…。

俺は、がっくりと肩を落とした。
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