The previous night of the world revolution5~R.D.~
驚きのあまり、俺はしばし声が出なかった。

「どうも。忙しいところ済みません」

顔と名前は知っているし、めちゃくちゃ近所、ってかお隣さんだし。

土下座まで見られた仲だけど。

ちゃんと言葉を交わした機会は、ほとんどなかった。

「あっ、いえ…。大丈夫です…」

俺は、何とか声を絞り出した。

ルーチェスさんは、特務諜報員という特別な肩書きの持ち主。

『裏幹部』とも呼ばれている人だ。

つまり俺にとっては、ルレイアさんやアイズレンシアさんのように、上司に当たる人。

「わざわざお越し頂くなんて…。用があれば、こちらから…」

呼んでくれれば、すぐに駆けつけたのに。

年齢や、加入した期間なんて関係ない。

「いえ、今日は、僕が頼み事をしに来たので」

「頼み事…?俺に、ですか?」

何故、俺に?

ルレイアさんとか…ルルシーさんに頼むのなら分かるが。

何故敢えて俺なんだ?

「うちの奥さん同士が仲良くしてることは、あなたも知ってますよね?」

と、ルーチェスさん。

奥さん…フューニャのことか。

「はい…知ってますが」

フューニャは最近、しばしばお隣のアンブローシア家の奥様と、お互いの家でお茶をしているそうだ。

近所にお喋り友達が出来たと、喜んでいる。

「その…。うちの嫁が、お世話になっているようで…」

「こちらこそ、セカイさんと仲良くしてくれてありがとうございます」

セカイさんて言うのか。ルーチェスさんの奥さん。

「それであの…。頼み事というのは…」

「あぁ、それなんですけど…」

…何だろう。

うちの嫁と仲良くしてくれるな、とか?

かと思ったら、むしろ正反対だった。

「嫁同士の仲は良いのに、夫同士は大して知らない仲って、なんか変な気がしません?」

「え?」

「折角人生で初めて、ご近所さんというものが出来たので、是非僕は、家族ぐるみで仲良くしたい」

人生で初めてのご近所さん、って何?

今まではご近所さんいなかったのか?

何処に住んでたんだろう。聞きたいけど聞けない。

「お手本とすべき先輩夫婦でもありますしね。新婚の僕らに、夫婦円満の秘訣とか、教えてくれません?」

「そ、それって…」

「つまり、僕と仲良くしてくれませんか、ってことです」

「…!」

…まさか。

『裏幹部』ともあろう人に、直々に仲良くしようと誘われるなんて。

むしろ俺の方が、仲良くさせてくださいと頭を下げなければならない立場だろうに。

幹部級の人と軽々しくお友達なんて、いくらなんでも畏れ多過ぎる。

いや、でも断る方が失礼か。
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