The previous night of the world revolution5~R.D.~
「ルーチェスく~ん。何してるの?」

「刺繍です」

僕は、いつもの愛読書シリーズ。

『猿でも分かる!初めての刺繍』という本を購入し、その本を参考に、刺繍に挑戦していた。

シュノさんへのサプライズプレゼント、何にしようかと散々考えたのだが。

まだよくシュノさんの趣味も分からないし、ここは無難に定番を突くべきだろうと、刺繍に挑戦することにした。

人生初である。

バイオリンもトロンボーンも弾けるのに、刺繍は出来ないなんておかしな話だからな。

やれば出来るの精神で。

「刺繍?あ、きれ~い」

セカイさんは、僕の手元を覗き込んだ。

「上手だねぇ、ルーチェス君は何でも」

「そうですね。僕も、自分の才能が怖くなってきたところです」

「ところでその可愛いハンカチ、誰にあげるの?」

「職場の女上司に」

「…」

セカイさんは、無言で裁縫道具の中から、裁縫針を一本取り出し。

軽く、僕の手の甲にプスッ、と刺した。

「いたっ」

妻に針で刺されました。

これはDVですか。

「良いね~その上司さんは。ルーチェス君のお手製ハンカチをもらえて」

「…拗ねてます?」

「拗ねてないもんね。お姉さんは心が広いから、そのくらいで拗ねたりしないもん」

…と、言う割には。

ご機嫌斜めのお姉様である。

「…セカイさん」

「何?」

「好きな色と好きな花を教えてください」

「…!」

シュノさんの分が終わったら、次は。

少し上手くなった刺繍の腕前を、今度はうちで披露するとしよう。

「…ふふっ。ルーチェス君にお任せだよ」

機嫌を直したセカイさんが、後ろから抱きついてきた。

「ルーチェス君は可愛いのう~、えい、えい」

「ちょ、いたた。耳引っ張らないでください」

こんな他愛のないやり取りに、幸福を感じる今日この頃である。






END
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