The previous night of the world revolution5~R.D.~
ルリシヤの適切な処置のお陰で、止血は済んだ。

「少し体勢を変えさせてくれ。楽になるから」

ルリシヤはアイズの身体を動かし、体勢を変えさせた。

「あっ…ぐ…」

ほんの少し動くだけで、傷口が痛むのだろう。

アイズの口から、呻き声が漏れた。

「大丈夫か?他に痛むところはあるか?」

「…大丈夫…ありがとう…。少し、楽になった…」

アイズは、途切れ途切れにそう答えた。

その口元は、何とか微笑みを作ろうとしていた。

こんなになっても、俺達に心配をかけまいと…。

「すぐに医療班が到着する。それまでの辛抱だ」

「…ごめんね、面倒かけて…」

「馬鹿言うな」

俺は周囲の警戒を続けながら、アイズを叱咤した。

何が面倒なものか。

「仲間が連れ去られたら、助けに来る。当たり前のことだ」

お前だって、拉致されたのが俺達だったら、同じことをするだろうが。

「そう…だね。ありがとう…」

「上のことは心配しなくて良い。ルレイア先輩とシュノ先輩が上手くやってくれてるからな」

「…しゃ、は」

「うん?」

「アリューシャ…。アリューシャは…?大丈夫…?」

…お前って奴は。

こんなときでも、自分よりアリューシャの心配か。

だが、俺だって人のことはとやかく言えない。

これが俺とルレイアだったなら、俺だってまず一番に、ルレイアの心配をするだろうから…。

「あぁ。勿論アリューシャ先輩も元気だ。今、狙撃ポイントから合流してるところだ」

ルリシヤは、事もなげにそう答えた。

だが、本当は嘘だ。

アリューシャは、あの狙撃のせいで、今頃自力歩行も出来ないほどに衰弱しているはず。

もしかしたら、狙撃の反動で受け身を取り損ねて、肋骨が折れてるかもしれない。

でも、そんなことを今のアイズに伝えてみろ。

折角止血した傷口から、また血が溢れ出しかねない。

今は黙っておくのが吉だ。

「アリューシャ先輩、超格好良く狙撃してたからな。後で褒めてやってくれ」

と、軽口まで飛ばすルリシヤ。

今は断じて冗談を言ってる場合ではないが、しかしこの言葉は、アイズに元気を与えたようで。

「ふふ…。そっか…。じゃあ、褒めてあげないと…」

超格好良く狙撃した、と嬉しそうにはしゃぐアリューシャの姿を想像したのだろう。

アイズは、作り物ではない、本物の笑顔を見せた。

良かった。

「他の皆にも、後で会えるから。気を強く持つんだぞ、アイズ先輩」

「そうだね…。皆にまた…会うまでは、死ねないね…」

「…死のうとしても、死なせねぇよ」

俺は、そう答えた。

「その通りだ、ルルシー先輩」

「大体お前がいなくなったら、誰がアリューシャの面倒を見るんだ。俺は御免だぞ」

「ふふ…」

また笑った。

笑い事じゃねぇよ。

俺の相棒が、ルレイアしか務まらないのと同じ。

アリューシャの相棒は、お前しかいないんだよ。アイズレンシア。
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