The previous night of the world revolution5~R.D.~
「…おい、オルタンス。入るぞ」

手紙を手に、上司の部屋を訪ねると。

「…」

家主は、仕事をするでもなく、ぼけーっと壁を見つめていた。

…とうとうおかしくなったか?

いや、元々こいつはおかしい。

だから嫌だったんだ。こいつに会いに来るのは。

でも仕方がない。こんな手紙を受け取ってしまったからには。

「…おい。何を見てるんだお前は」

「…」

オルタンスが見つめる先。

執務室の壁にかかっているのは、カレンダーでも時計でもない。

立派な絵画でも、誰かの肖像画でもない。

ポスターである。

…『frontier』の。

「…」

…女子高生の部屋か?ここは。

「…帝国騎士団長ともあろう者が、壁に何かけてんだよ!」

「『frontier』のポスターだ」

それは見たら分かる。

「しかも、自筆サイン入りだ。先日発売したCDについている応募券で、抽選一万名にだけ当たる、超レアポスターなんだ」

「…あ、そ」

その貴重な一万人のうちの一人になったと。

そりゃ良かったな。

「…死ぬほどCD買って、応募券送りまくったからな。無駄にならなくて良かった」

前言撤回。

いっそ外れてしまえば良かったものを。

「丁度良かった、アドルファス。今、このポスターをおやつ代わりに、お茶でも飲もうと思っていたところだ。どうだ、一緒に」

「断る」

何が嬉しくて、こんなおっさんと午後のお茶を頼まなきゃならないんだ。

ふざけるな。

「真面目に仕事をしろ」

「ちなみに、もう三時間くらいこのポスターに見惚れてる」

「真面目に仕事をしろ!」

お前は、一日のうちの貴重な三時間を、ただこのポスターを見つめることだけに費やしたのか。

謝れ。

お前が無為に過ごしたその三時間、この手紙に頭を悩ませていた俺に謝れ。

「そんなことより」

「俺には今、このポスター以上に大事なものはない」

「ルレイアから手紙が来てるぞ」

「…」

オルタンスは、ポスターから目を逸らし、くるりとこちらに向き直った。

「…ポスター以上に大事なものはないんじゃなかったのか」

「…見せてください」

敬語かよ。

「ほらよ」

手紙を渡すと、オルタンスは貪るように読み始めた。
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