天使の詩(うた)〜divine wind song〜
「ごめんなさい。私たちはわかっていながらもあなたに歌を歌わせ続けた。それは、あなたの歌が今まで聞いてきた神風のどれよりも美しかったから。それは事実よ」
そういうと指導官は再び世界樹を仰ぎ見る。
「セシル、あなたは知らないでしょうね。あなたが来る前の天界はとても荒れていたの。神風候補がいなかったから。誰もが認める候補が。ある程度歌える天使を立てても、嫉妬や憎悪が渦巻いていたの。だから、天界は荒れていた。純粋な心が育たないために、世界樹もまた育たなかった」
セシルは顔を上げようとしない。
「だから、あなたが必要だったのよ。純粋な心を育てるための犠牲が。本当にごめんなさい。でも、もう歌わなくてもいいわ。辛いなら辞めてもいい」
うるんだ瞳を指導官に向けた。
「だけど、そのためには試練を受けなければいけない。あなた自身が純粋な心を育てるために。受けるか受けないかは、セシル、あなたが決めなさい。私たちはこれ以上あなたに何も強制しない」
セシルは答えない。
何を答えればいいのかわからなかった。