きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

28 ジェレマイア

 ジェレマイアがリデルを失ってから時々見るようになった夢は、始まりは毎回違うが、終わりの場面はいつも同じだ。

 目覚めてから思い返しても、夢だからそこまでの流れはあやふやなのに、終わりだけは、いつもはっきりしている。
 きっと終わりだけが、彼の中では重要だからだろう。


 視点は自分で。
 場所は王都邸の玄関ホールへ降りる大階段。
 その上に自分は立っている。 
 隣には女の姿がある。
 当時のジェレマイアと女の身長差は、そこまで無かったはずなのに、自分の目線はもっと低い位置から隣を見上げている。


 女がドレスの裾を引っ掛けて、階段を踏み外してよろめく。
 放って置けば良いのに、手を伸ばして。
 助けようとしたのか。
 だが、今よりずっと小さな手は拒絶され。
 女が持つ扇にはね除けられ、行き場を失う。

 女は落ちなかった。
 たたらを踏んでよろめいただけなのに、助けようとした事が却って屈辱に感じたのか。


 息子にだけ聞こえる声で、忌々しげに言う。


「わたくしに触れることは許しません。
 下等な血に触られたくないの」

 己をどれ程上等だと思っているのか、この女はいつも人を、上等と下等に分ける。


 声自体は小さいが、故意にこちらを傷つけようとした言葉を投げつけられて、そこで。

 視点が切り替わり。
 うちひしがれた幼い自分を、高みから眺めて。
 そこで夢は終わる。 
   


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