きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 ジェレマイア本人は自分をまともじゃない、と過小評価しているが。
 リデルは彼がイングラムの善き領主になれるよう、努力してきた事を知っている。


 その彼がこれまでの努力も苦労も、何もかも捨てると決めて。
 汚名を引き受けてまでして、ここに居る。
 それは口で言う程、簡単じゃなかったはずだ。
 

 
 本人が言うように、重過ぎる愛を抱えたジェレマイアを、見つめて。

 リデルは堪えきれなくなって、嗚咽を漏らした。


  ◇◇◇


「リィ、ちょっとだけでいいから、肩に手を当てて?」 

 ジェレミーは時々、そんな風に軽い感じで、リデルに頼んできた。  


「いいよ、この前も背中が痛いって言ってたでしょ?
 団長に言って、もっと優しくして、ってお願いしてみたら?」

「うーん、それは許してくれないからなぁ」   

 そう笑いながら、言うから。
 一応、『早く痛みが取れますように』と念じて手を当ててみるけれど、そんな大した怪我じゃないとリデルは思っていたくらいだった。

 その上、
「じゃあ、もっとがんばって、もっと強くならなきゃね」とまで、偉そうに言って。


 リデルは知らなかった。
 ジェレミーは、彼女の前ではいつも笑っていたから。 




 何度か、痛みを訴えていたジェレミーを、思い出した。
 でも、それは頻繁ではなかった。
 あれは、鞭で打たれた傷がどうしても我慢出来ない時にだけ、お願いしてきていたんだ、と今初めて知り。
 

 もっとがんばれ、なんて、よく言えたものだ。 
 ジェレミーはずっと、独りでがんばっていたのに。

 もっと強くならなきゃ、なんて、知らなかったにせよ。
 強いから、知られないように、笑顔を見せてくれていたのに。


 服の下に隠された傷、笑顔の下に隠された苦しみに、少しも気付けていなかった。


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