きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 ◇◇◇


 昨日と同じ店、同じ場所に、その男は立っていた。

 昨日と同じマントを着て、フードを被り、背中を向けている。
 そうして昨日と同じ様に同じ女、リデルを待っている。

 治療院の終業時間まで、結構あるのに。
 もうこんな時間から待っているんだと思うと、殊更リデルが恨ましく、妬ましい。

 最初にどう声をかけようか、とここに来るまで悩んでいたが、いざ男の姿を確認すると、成るように成る、と思えた。
 何せシーナは自分から男に声をかけて、邪険になどされた事がない。
 自然と自分に、自信を持っていた。


 それでも、この男の好みがリデルであるのなら、少しそれ風にしてみようか、ちょっと真面目な感じで。
 そう決めて、隣に並ぶ。


「あの……リデルを待っていらっしゃるんですか」


 いつもより、おずおずと遠慮がちに声をかけてみる。
 が、男は手にしている小型の地図本を熱心に読んでいるのか、こちらを見ない。
 仕方がないので、もう一度。


「リデルを、待って、……」

 そこで男がこちらを見た、気がした。
 何せ、フードを深く被っていて、口元しか見えない。
 その唇からは、シーナが話しかけているのに、少しも返事が返ってこない。

 そうか、ちゃんとわたしの顔が見えていないからだ、と気付いて。
 男がそのまま無言で離れようとしたので、マントを掴み、1歩近付いて、フードの中を覗きこんだ。

 そこには想像以上に端正な作りの顔があり、どこかで見たような気もしたが、赤毛でこれ程綺麗な男なのに不思議とはっきりした記憶がない。
 だが、咄嗟に掴んだマントの手触りで、それが高級なものだということは分かった。

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