きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 堪えきれずに涙が溢れた。
 泣いて許して貰うのは得意なシーナだったが、流石にこの男にはそれが通じるとは思えなくて、本当に怖くて流した涙だった。

 
「お前の持ってるはした金なんかに、興味はない。
 簡単な取引だ。
 お前がこの事を、リデルにも誰にも言わないなら、俺は動かない。
 だがもしも、誰かがリデルについて、今お前が言っていたような噂をしていて、それが耳に入ったら俺は動く。
 最初に噂を聞いた時、先ずお前の実家のグローヴのザックを潰す。
 2度めに聞いた時は、お前が住んでるワトリーの花屋を潰す。
 3度めの最後は、逃げ場も居場所も無くなったお前自身を潰す」


 これでは取引ではなく、脅迫だ。
 分かっていても、シーナには受けるしかない。
 ここ領都で何かをすれば、この男には直ぐに知られてしまうのだから。
 これはきっと、この先ずっと続く取引だ。
 ……シーナがリデルと同じ場所に居る限り。


 蒼白になったシーナを置き去りにして、男が来た道を戻っていくのを見送る。
 あの本屋で、あの男はフードを深く被り、リデルを待つ。
 そして、何食わぬ顔をして、仕事を終えたリデルの手を優しく握るのだろう。


 もうここに居ては駄目だ。

 そう決めたシーナは、その足で職場に向かい、退職願いを提出した。

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