きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

36 ジェレマイア

 ミネルヴァ・ロバーツが男どもを誘惑するのに使用するのは、王室秘蔵の禁断の鏡だと思っていた、とテリオスが珍しく自分の過ちを打ち明けてくれた。


「150年くらい前に、当時の王弟が国王を廃位させるために子飼いの魔女に作らせた鏡だ。
 王妃がそれを持ち出してあれに使わせている、と思い込んでいたんだが、保管庫にまだあった」


 その王位簒奪の企みは王室筆頭魔法士に見破られ、王弟一族と魔女、関わった貴族達も大勢処刑されたが、魅了の鏡は国王が押収して、城のある一室に厳重に保管された、という。


「は?魅了に、禁断の鏡に、魔女に筆頭魔術士?
 そんな設定の童話じゃ、今時子供にだって馬鹿にされます」


 テリオスの説明に、不敬だがジェレマイアはつい笑ったが、それを無視してテリオスは話を続けた。


「いや、現実の話だ。
 公にはしていないが、王家は未だに魔術士を抱え込んでいる。
 この国には魔力を持つ者は少なくて、今では魔法なんて現実には有り得ないと考えられているが。
 北の大陸には魔法が普通に存在していて、魔力がどれ程多いかで、次の王を決める国もあるらしい。
 現にこれを見ろ」


 テリオスが見ろと言って、ジェレマイアに見せたのは、左手薬指にはめられた銀の指輪と、左耳に付けた銀のピアスだ。


「これは王族が与えられる指輪で、魅了を始めとする魔力に抗う力を持つ。
 そして、同様の力を持つこのピアスの方は、俺がお抱え魔法士に頼んで、王妃達には内緒で作らせた。
 で、俺はこの指輪を外してミネルヴァの相手をするが、ピアスは付けたままなので、あれに魅了される事は無い、と万全の態勢で事に当たろうとしていた」


 いつも、他の奴が居ないところでは、ふざけた事を言い出すテリオスだ。
 今回の魔法の鏡やお抱え魔法士云々も、きっとその類いで。
 俺がまともに、それを信じたら、この腹黒は笑い飛ばすつもりだろうな、とジェレマイアは適当に聞き流す事にした。


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