きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
「旅の女神の幸運を」

 旅人に贈るお決まりの祈りをデイヴが口にすると、ジェレマイアは頭を下げた。
 そして。


「デイヴ、頼みたいことがある。
 リィの事は勿論だけど、リーブスをよろしく頼む。
 お前の最期は看取ると約束したのに、俺はもう2度と会えない。
 今日は、夜に出掛けるなら冷えるから靴下を2枚重ねて履くように言われた」

「……靴下を2枚じゃ、どうにもならないが、気が付いていたんだな」

「咳をする事が増えてる。
 出来るだけ長生きさせたい」





 ジェレマイアと手を繋ぎ、ウィンクラー山に向かう夜道を歩く。

 これからの山越えに備え、リデルは肉と野菜を挟んだパンと、普段は勿体なくて使えない角砂糖を包んだ。
 彼が用意した食料は、少しでも後回しにして欲しかった。


「お砂糖の方は、疲れた時にゆっくり口の中で溶かしてね」

「……分かった」

「いつまでに迎えに来て、とは言わない。
 だけど、お婆さんになる前には顔を見せてね」

「分かってる、爺さんになった俺には山越えは難しいから。
 ……もっと早くに会いに来る。
 本当はシェイマスなんかに行かずに、君と一緒に行けたら。
 俺は……リィ……」



 ジェレマイアが言いたい事は、リデルも言って欲しい事だ。


 それでも。
 ふたりは、約束を守る事と信じて待つ事を選んだ。


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