きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

39 リデル

 ジェレマイアが越えたウィンクラー山の雪冠が溶け、辺りに緑が萌だした頃になったが、彼からの連絡は無い。

 シェイマスに無事に到着したのか、それだけでも知らせが欲しい。
 胸の内では、じりじりと小さな火がずっと灯っていて。
 その熱さに耐えられなくなると、リデルは寝台に飛び込む。



 それでも、彼との約束は守っている。

「俺が消えても、君がこれまでと変わり無く過ごしていてくれたら」
 
 


 ご長男様が領地から消えて。
 変わった事は少しだけ。


 まず、日常を別邸で過ごされていたご領主様が、本邸に戻られた。

 本邸の家令を長らく勤めていたジョージ・リーブスは勇退して、その場所を別邸で執事達をまとめていたクレモントに譲った。
 表に出したのは、『勇退』だが、其の実はジェレマイアの出奔を翌日昼まで報告しなかった事と。
 命じられていたのに、ジェレマイアを謹慎させず、自由にしているのを見逃していた事に、後から知ったご領主様が激怒して……なのは、本邸使用人達には分かっていた。

 おまけに、歳を取って耄碌した家令が馬鹿なご長男様を自由にさせていたせいで、彼はなんと平民の娘に言い寄って。
 手酷くふられ、屈辱でここから逃げた。


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