きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 お馴染みの市場にあるパン屋のカフェコーナーだ。 
 今回は妊娠の御祝いに、と遠慮をするシェリーを止めて、リデルが奢った。
 ただし、前回の仕返しに彼女の希望を聞くこと無く、お茶ではなくホットミルクを勝手に注文してやった。

 シェリーだけではなく、大概の人は、本邸メイドの彼女達の技術とスピードには勝てないのだが、リデルは黙って頷く。
 シェリーが義母の言うことを受け入れられて、ガイルズ家の平和が訪れたのなら、それは何よりの事だから。


「それでね、話は変わるけど。
 あなたのところに、シーナ先輩は会いに来た?」


 もう思い出すことも無くなっていた懐かしいその名を聞いて、リデルは首をふった。
 シーナ・ワトリーとは、クラークと3人であったのが最後で、それからは何も無い。
 披露宴会場に居たのは知っているが、接触は無かった。


「全然顔も見てないけど? どうして?」

 リデルの返事に、シェリーが腕組みをして、うーんと唸って見せた。
 やはり、彼女は芝居がかっている。


「わたしのところに、何か仕掛けて来るかと期待してたんだけど、何も無くて。
 もしかして、そのとばっちりがリデルの方に行っちゃったかも、と思ってたんだけど」

 シーナが仕掛けて来るのを、シェリーが楽しみにしていた?
 代わりに、そのとばっちりがリデルに来たのでは、と?


 シェリーがずっとシーナを恨んでいて、結婚式で思い知らせてやった、と知らないリデルには、話が全然見えてこないのだが……
 結局、シェリーから提案された『あのふたりを見返す』のは失敗した。
 クラークは全く後悔していなかったし、シーナも泣いてなんかいなくて、きっとまた素敵な人を恋人にして楽しんでいるだろう。


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