きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

42 ジェレマイア

 ウィンクラーの山越えは、デイヴが懸念した通り、3日掛かった。
 幸いにも今年は暖冬で、雪も山頂近くにしか積もっておらず、ジェレマイアが進む中腹を向こうへ回る山道には影響は無かった。
 
 それでも冬の日没は想定していたよりも早く、行程は遅れて、気持ちは焦るばかりだが、ここで無理をするのは禁物、と。
 昔から旅の達人デイヴの忠告は素直に受け取る事にしていたジェレマイアは怪我も無く、山向こうのベレスフォード伯領へ降りることが出来た。


 山から降りたジェレマイアが先ず向かったのは、真っ先に目に入った『公共温泉』の看板を掲げた、誰もが料金だけ支払えば利用出来る温泉施設だった。
 とにかく熱い湯に浸かりたかった。
 湯船の中でゆったり身体を伸ばせば、ここまでの疲労回復と、ここからの英気を養える。
 

「お兄さん、湯船に浸かる前に、ちゃんと身体を洗うんだよ。
 それから、あんたは前払いだからね」

 入り口の受付に居た女が、眉を潜めてジェレマイアを見て、注意をしてきた。
 目の前に貼られている料金表にも、後払いと書かれているのに、前払いを要求される。
 ジェレマイアの汚れた出立ちと、髭が伸びて人相が変わった彼の様子に、ちゃんと払えるのか、怪しんでの事だろう。

 内心、失礼な奴、と思うが、ここで文句を言って、警邏を呼ばれたりした方が大変だとジェレマイアは素直に前払いをした。


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