きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 午前中の温泉は、人影もまばらで、他人に気を遣う事無く服を脱ぐ。
 デイヴが貸してくれた厚手の上下を脱げば、身体も心も軽くなった。
 無事にここまで来れた。
 目的地のシェイマスまではまだまだあるのに、達成感に叫び出しそうになる。


 上機嫌のまま顔に剃刀を当て、髭を剃る。
 赤く染まったままの髪は、薄汚れていたが、洗うと直ぐに元の銀色に戻る。
 言われた通りに、湯船に浸かる前に入念に身体を洗えば、足元に汚れた湯が流れ落ちた。
 そして念願の湯船に浸かり身体の芯から温まってくると、眠くて堪らなくなったが、その度に隣の浴槽に張られた冷たい水で顔を洗った。


 広い湯船の中で身体を伸ばし、頭上の天井を見上げながら、今日の予定を考える。
 これから、馬を見に行き。
 次の町までの食料を買って、素泊まり宿を探す。
 食事付きの宿は楽だが、あれこれ詮索するように話しかけられる事も多いと聞くし、この旅ではそれは危険に思えた。


 いつまでも湯の中で揺蕩っていたいが、それは無理な話で。
 ジェレマイアは名残惜しそうに湯船を見つつ、浴場を出た。
 幸いにも彼の荷物は荒らされる事無く、そこにそのまま残されていた。
 脱衣場での置き引きの発生は、混む夕方に紛れてが多いと知っていたが、ほっと一息をつく。


 ジェレマイアは標準より腕が長いので、既製服は合わない。
 替えのシャツは2枚荷物に入れてきたが、下着と靴下は用意していなくて、また同じものを身につけ、頭の中の買い物リストに下着類を3枚加える。

 デイヴは貸した服は捨てるなり、売るなり自由にしろ、と言ってくれたが、全てを捨ててきたジェレマイアも、これは捨てたくなかった。
 今は持って歩くしかないが、馬を購入するのだし、と一回り大きめな袋も買おうと決めた。


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