きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 だから……父さん、どうか、今も『それ』を察して欲しい。

 明日になれば、明日の朝になれば。

「クラークにふられちゃったの」と軽い調子で言えるから。



 そう決めていたのに。
 今夜だけは、学園で過ごしたクラークとの楽しかった日々の思い出にひたり。
 明日からはそれを忘れて、また新しく始めるの、と笑おうと決めていたのに。

 
 いつもと明らかに違う娘の様子に気づいているだろうに、父は何も尋ねない。

 
 ようやく食事を終え、2人分の食器を重ねるリデルにデイヴが話し出した。


「明日の夜、若様がこちらにお戻りになる、と聞いた」

「……夜に、何故?」

「……人目につきたくないのだろうな。
 事の経緯は、お前も知っているだろう。
 ご領主様は若様を、恥じておられるようだ」 

「……」



 その知らせに、何も返せなかったけれど。

 父の語尾は疑問文ではない。


 その通り、リデルも。

 遠く離れた王都で吹き荒れた嵐の経緯は、知っている。




 王立貴族学院で吹き荒れた嵐。

 それはある男爵令嬢が第2王子殿下や、そのご友人の高位貴族令息達を誘惑して、巻き起こった嵐。



 我が領の若様。
 次期イングラム伯爵閣下になるはずだった若様。


 ジェレマイアは、その令息のひとり、だった。

 
< 2 / 225 >

この作品をシェア

pagetop