きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 それと、もう1つ。
 彼女は最後に、リデルに魔女と言った。
 それも敢えて、その言葉だけを聞かせるように、その時だけ耳元で囁いたのだ。

 

「リデルは聖女とか言われて、いい気になってるけど。
 あれは魔女だね、って言う患者さんも居るって知ってる?」

 手洗いから戻ってきた時に、休憩室から聞こえてきたのは、リデルと同期で入ったアンヌの声だった。


「へー」

 答えているのは、リデルと仲の良いメイだ。


「へー、ってメイ、触ったら治る、とか皆喜んでるけど。
 そんなのは絶対におかしいでしょう」

「掌には特別な力がある、って聞くよ?
だから『手当て』って言葉があるんでしょ?
 アンヌがリデルを魔女と思いたいんなら、思っとけば?
 善の魔女って事で、はい、この話はおしまい。
 午後診始まるまで、寝かせてよ」

 メイが話に乗ってこないので、アンヌはそれ以上食い下がるのを止めたようだが、立ち聞きした方のリデルは、部屋には入れなくて、その場から逃げた。
 それからも、彼女の内ではアンヌの言葉が今でも残っていて、馴染みの患者に手を当てながら
「もしかしたら、この人がわたしを魔女だと言っているのか」などと不意にそれを思い出すのも、度々あった。



 ……駄目だ、もう後回しには出来ない。
 ずっと心に居座っているそれを、ちゃんと自分なりに調べてみようと決めたリデルは、仕事帰りに例の本屋に向かった。
 
 
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