きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 ジェレマイアがイングラムを出て、2ヶ月が過ぎた春の始め。
 ジョージ・リーブスが、この世を去った。


「春風邪にかかられたの、それが肺炎に進行して。
 父さんが仕事の終わりに毎日通って、わたしとエラも行かせて貰って。
 最初は寝ていても、意識はしっかりあって、貴方の小さな頃の話をよくしてくれた」

「……」

「それが肺炎になってからは、意識も混濁し始めて。
 話される事も無くなって、父さんからは覚悟をするように言われたの。
 貴方が戻ってくるまで、保って欲しいと手は尽くしたんだけど……
 父さんがリーブスさんが危篤だと報告したら、顔色を変えたご領主様がお見えになって、意識の無いリーブスさんの手をずっと握っていらした。
 リーブスさんは、時々『若様、お色は気にせず』と意識が無い中でも口にされることがあって、若様は貴方の事だと思っていた。
 だけど……あれは、ご領主様の事だったのね」

「……そうだな、父親も……リーブスにとって若様だ。
 きっと子供の頃から、コートの色じゃない自分に苦しんでいたんだな……」

「ご領主様は翌朝リーブスさんが亡くなるまで、一晩中付き添って。
 リーブスさんにはご家族がいらっしゃらないでしょう。
 ご領主様が全て段取りをなさって、それはもう……
 とても暖かな、いいお葬式で……立派なお墓も建てられて。
 ……今でもお花を手向けていらっしゃる。
 リーブスさんは、ひとり寂しく旅立たれたのではない。
 それが少し嬉しい話」


 リデルが悲しくて少し嬉しい話を終えると、立ち止まったジェレマイアが空を見上げた。
 夏を迎えて、日没の時間はまた遅くなった。
 その夏の夕空を見上げたまま、ジェレマイアは話し出した。


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