きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
 そうだった、この人は婚約者を裏切って、他の女性に夢中になったひとだった。
 お相手は美貌の男爵令嬢だと聞いたし、最初は軽い遊びのつもりだったのだろうが、婚約破棄するくらいに本気になって。
 彼女と別れて半年以上経った今でも、食事が取れないひとだった。


 久し振りに会えて、嬉しくて、揺れ動く気持ちを悟られたくなくて。
 必死に隠そうとしたけれど、恋愛に慣れたジェレマイア様には、多分それはお見通しで。

 観察するみたいに、わたしはずっと見られていた。
 それで好きだとばれて。
 少しは遊べる女だと思われて……?



 そう考え始めると、ひとりで勝手に舞い上がって、あたふたとみっともない対応をしてしまった自分が馬鹿みたいに思えた。


 ジェレマイア様は患者で、わたしは看護士。
 
 その線引きは、きちんとしなくては。
 

 
「お顔の色も悪くないですし、痛みも治まったようですね。
 父からは栄養薬を処方されているとお聞きしましたが、それに加えて胃痛の薬をお渡ししておきます。
 取り敢えず、1週間毎食後に服用してください。
 それでも痛みが治まらないようでしたら、次回は看護士ではなく、治療士をお呼びくださいませ」


 そう一気に言えば。
 急にしゃんとして、態度を変えたリゼルに驚いたようなジェレマイアに一瞥もくれず、頭を下げ、部屋を出た。
 
 
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