きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

16 リデル

 当初の予定よりも2日早く、父デイヴが騎士団の軍事演習から戻ってきた。

 今年の冬季演習は雪も積もらず好天に恵まれて、怪我人も少なくて、無事に済んで助かった、と笑う。

 
 俺の留守中に何かあったか、と尋ねられたので。
 市場で会ったシェリーに頼まれて、彼女の結婚式にやはり出席する事にした、とリデルが伝えると。
 デイヴは、またしても微妙な顔をした。
 それからしばらく、間が空いて。



「その子はあれか……部の仲間か」

「そうボランティア部のね、花婿もそう」

「……じゃあ、あれか、あの……クラークだったか。
 あれも来るのか」

「うん、クラークも来るって、聞いてるけど」

「……」


 
 いつもは良く回るデイヴの口が随分重めで、『あれ』を繰り返すのがおかしくて。
 リデルは笑みがこぼれるのを、デイヴに気付かれないように明後日の方に向いた。

 デイヴには、クラークにふられた事をちゃんと話していないが、職場が一緒のエラに聞いていたのだろう。
 しかし、そんな風に気を遣ってくれている父には申し訳ないくらい、リデルはクラークを気にしていない。


 あの日、シェリーに会うまでは、そこまでクラークに対して冷めてはいなかった。
 だが、彼女から
「あのふたりを見返そう」だの、「また付き合うつもりみたい」だのを、聞いて。

 どうしてか、自分でも分からないが。
 今は本当にどうでもよくなってしまった。


 また結婚式に出席する気になったのも、クラークとシーナを見返すためじゃなくて、出席者の数合わせでもいいから、少しでもシェリーの助けになれたら、と思ったからだった。 

 しかし、そうは言ってもリデルは、決して清廉高潔な聖人様ではない。
 
 綺麗にお化粧をして、いつもより華やかな服を着て。
 見事に変わった自分を、あのふたりが見て。
 シェリーが言うように、
『クラークがもう遅いと思い知り、シーナが敗北の涙を流す』事が、本当に起こったら面白いな、くらいは思っている。

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