きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~

19 エラ

 エラの母エルザを始めとする本邸のメイド達は、いわゆる『宝の持ち腐れ』状態に置かれていた。
 

 先代の伯爵夫人に仕えた先輩方にしごかれ、鍛えられたこの技を披露する場はなかなか来ない。
 何故なら当代ご領主様の奥様であるイングリット様は王都邸で暮らしていて、ほとんどイングラムには戻ってこられないからだ。 


 これまでの領主夫人達は皆、必要な社交に合わせて王都と領地の両方を往き来し、その都度本邸からメイドを何人か引き連れて移動をしていたのだが。
 当代の奥様は、ご自分の実家のメイド達を王都邸へ連れていき、仕えさせていて。
 また、本邸に戻る際にも連れてきて、身の回りに置いた。

 つまり、本邸のメイド達は奥様のお世話を、一切させて貰えなかったのだ。


 母エルザも決して口には出さないけれど、その鬱憤はたまっていたのだろう、エラが持ち込んだシェリー手縫いのドレスを見るなり
「これは、何とかしないとね」と訳を話すより先に、同僚に協力を求めた。


 それから現状で当主不在のため、本邸の主のようになっているジェレマイアの許しを得て。
 手の空いているメイド総掛かりでのドレスの手直しが始まった。

 

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